29・青ざめる訪問者

第29話

「ランティス・ヒョウ」

「あっ、はい。侍女長」


午後の仕事をしていたら侍女長に呼ばれ侍女長の所に向かうティス。


「ランティス・ヒョウを出しなさいと門で騒いでいるわ。貴女の知り合いかしら?」

「えっ?」


窓から眺めたら門で言い争っているのが見えて

ティスは、青ざめる。


「申し訳ありません。直ぐに対処してきます」

「そうして頂戴。クッシナン王子が不在なのですから」


モウ王子も諸用事出かけていて不在。

陛下と皇妃も居るが基本表舞台には立たない。


「お義母様!ラリーネ様!」

「あらっ、ランティス」

「遅かったわね」


案の定、義母と姉・ラリーネの訪問にティスの顔は青ざめる。


「帰ってこないから心配したわ」

「申し訳…ござい…ません」


兵士達から見えない死角の所でティスの足をギリギリ踏み続けているラリーネ。


「家族で話し合いたいのよ。何処か休める場所はないのかしら?」

「申し訳ございません。ラリーネ様とお義母様はここまでになります」

「あらっ?そうっ」


ラリーネの足の踏み方が更に酷くなる。


「痛っ…」

「あら?何か聞こえた?お義母様」

「いいえ。何も聞こえなかったわ」


全体重を乗っけられて左足が痛いけど“痛い”と

歯向かってはいけない。


「ねぇ、ランティス」

「はい、ラリーネ様」


顎を掴まれて目を合わせる。


わたくしね、マリーサと婚約したの。そして、もう

じき結婚するの。」

「…そうですか」


マリーサの事はもうこれっぽちも思ってない。

今、ティスの心の中は“リン”の事でいっぱいなのだ。


(リン様に会いたい…)


ラリーネと義母に酷い事をされても心の中にリンがいた。


「あらっ?残念そうじゃなくて幸せそうね?

ランティス!」

「えっ?あっ!」


ラリーネに突き飛ばされてティスは転んだ。

もう、ここには3人しか居なかった。


「ランティス!アンタは幸せになる権利なんてないよの?」

「いつ帰って来るの?待ってるのだけども?」

「今、仕事が忙しくって…」


忙しいのは本当なのだけども、ティスは、家に帰りたくなかった。


「そう。じゃあ、城にて申請しておくわ」

「!!」


申請されてしまったらすぐ家に帰される!!と更に青ざめた。


「ランティス、返事は?」

「……」


歯向かう事をしたくないけど、どうしたら良いか分からないティスだった。

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