26・恋しい…寂しい

第27話

「雅之、今日も帰って来ない?」


お風呂から上がって雅之の寝室の扉を見ても向こう側は静寂でなんとも言えない気持ちになる。


「忙しいのよ。だって次期社長だもの」


雅之は、次期社長という立場。

私は、経理課の一社員。


「ここで一緒に暮らしているのも夢なんだわ」


真っ暗なキッチンとリビングの扉を見てそう思いたくなったけども。


「信じるって決めたんだから!!」


自分の両頬をパチンッと叩いて目を覚ませと叱咤しったする。

人肌が恋しいのよ。そうよ。


「恭一、お待たせ」


眠ってる恭一の隣に入って恭一の優しい温もりに温めてもらう。

この温もりも私にとっては大事。

だけども、何だか温もりが足りなくって心の中に風が通る。


「雅之…」


ボソッと名前を出してしまって慌てて口を塞ぐ。

寂しいなんて思って…る。


「早く寝なくちゃ!!」


無理矢理、目をつぶって寝るけど寝れないのは仕方ない事だと諦める。


「恭一!お迎えに来たよー」

「ママー」


最近定時に帰れるようになって恭一を託児所に迎えに行く。

日々、言葉がはっきりして来てお喋りになってくる恭一に嬉しくなる。

迎えに行くと満面の笑顔で私に抱きついてくれるから私もギューと抱きしめる。


「ポンポンすいた」

「お腹すいたのね。じゃあ、早く帰らないとね」


クスッと笑ってしまう片言かたことが可愛くっていつまでも眺めていたい。


「寒いからシチューにしようか」

「シィチー?うん。うん」

「お返事、ありがとう」


今までこうやって恭一と2人で暮らしてきた。

帰りに買い物に寄って忙しい時はお弁当を購入して、時間がある時は作って。


「パパ!!パパ、車」

「パパ?今日帰ってくるかなー?」

「かなー?」


恭一と2人きりだったのに、なんの障害もなく雅之の会話が出来るなんて。

雅之が私達2人の生活に入ってきたから。

1人でもう立てれないじゃない!!


「………!!」


気づいてしまった。

私、雅之が「恋しい」って感じるから温もりを求めているのね…。

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