第8話

「次の方」


「は、はいっ」



自分の番になった莉子は緊張しているのか、おどおどしながら立ち上がる。



「あ、あの」



クラスメイトの視線が莉子に向けられ、莉子はセーラー服の裾を握り締めたままぎゅっと縮こまる。



(莉子ちゃん、頑張って!)



真綾は心の中で応援しながら、莉子を見守っていた。



「大丈夫ですよ。落ち着いて」



笹山は小柄な莉子の目線に合わせるように膝を折ると、華奢な肩に手を置いては宥めるように語り掛けた。



「佐伯さん頑張れ」

「莉子ちゃん、ゆっくりでいいよ」



そんな笹山に便乗するように、二人の男子生徒が莉子に声を掛けた。



「さっ、佐伯莉子です。部活は家庭科部にはいってて、お菓子作りが好きです。よろしくお願いします……」



笹山と彼らの声に背中を押されたのか、莉子は真っ赤な顔をさせながらも自己紹介をした。



ぺこっと一礼をして慌てて座ると、全員は微笑ましそうに拍手をした。



自己紹介は滞りなく進んだ。






笹山が明日委員を決めることを告げてホームルームが終わり、高校二年の一日目は無事に終了した。



「真綾ちゃんっ」


「莉子ちゃん」



莉子が真綾の元へ近付き、見渡して笹山が教室にいないことを確認すると、鞄からスマートフォンを取り出した。



「よかったら連絡先交換しない?」


「そうだね。しよっか」



真綾は快く返事をし、スマートフォンを取り出すと、緑色のアイコンを立ち上げた。

交換をすると、新しい友達に真っ白なうさぎのアイコンに“りこ”という名前のアカウントが表示されていた。



「うさぎのアイコンだよね? あたしのは猫のラテアートのやつだけど」


「そうだよっ。真綾ちゃんのちゃんとあるよ」



無事に交換出来たことを確認すると、二人は途中まで一緒に帰ることとなった。



莉子は電車通学なので学校の最寄り駅へ向かいながら、お喋りに花を咲かせていた。



「真綾ちゃん、」


「なあに?」



視線を莉子に向けると、莉子はそれきり黙ったまま頬を染めてもじもじしていた。

真綾はそれを急かすことなく莉子が切り出すのを気長に待っていた。



「えっとね……笹山先生、すごく優しい人だね」



大きな瞳を細めて笑顔になった莉子。



「確かに温厚そうで性格いいよね」


「うんっ」



真綾はもしや……と莉子の心境をそれとなく察したが、莉子が言い出すまではと敢えて追求せずにいた。

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