第5話

「きゃっ、あ、久城さん!?」



彼女はくりっとした大きな瞳を丸くさせると、真綾の顔を見つめた。



彼女は佐伯さえき莉子りこ

一年の頃はクラスが違っていたが、同じ図書委員で挨拶や軽く雑談する程度に仲が良かった。



「莉子ちゃんも友達と別になっちゃったの?」


「うん……久城さんも?」


「そうだよ。だから莉子ちゃんがいてよかったよー」


「あたしもっ、久城さんがいてよかった!」



(莉子ちゃん可愛い!)



破顔した莉子に、真綾はノックアウトされそうになった。

学年で一二を争うほど可愛いと噂されているが、納得してしまうほどだ。



「莉子ちゃん、あたしのこと真綾でいいよ」


「呼び捨ては恥ずかしいから、真綾ちゃんでいい?」


「うんっ」



こうして真綾は莉子のお陰で孤立を免れ、ほっと安堵の息をついた。






始業式が控えているので在校生全員は整列して講堂へ場所を移す。



この高校は式典や全校集会は、体育館ではなく講堂で行われている。

整った設備に、洗練された内装。クラシックコンサートが開くことが可能である。



「上級生としての矜恃きょうじを持って――――」



席に座って早く終わらないかなと思いながら、壇上で長話をする校長に耳を傾ける振りをする。

校長のゆったりとし口調は眠気を誘い、つい居眠りしたくなるが、黒のプリーツスカート越しに太ももをつねって堪えた。



ようやく長い校長の話が終わり、赴任式に差し掛かろうとした。



新任教師と非常勤講師の挨拶が終わると、残るは担任となる笹山と言う教師のみとなった。



「次は××高校から異動されました笹山先生です」



教師がマイクでそう告げると、一人のスーツに身を包んだ男性が壇上に上がった。

これまでの教師や講師の時にはなかったざわめきが前列辺りから聞こえてくる。



何事だと思いながらも、後列に座っている真綾は、状況が分からずただ見つめるしか出来なかった。



壇上に上がった笹山は、演台に置いてあるマイクの角度を調節をすると、ゆっくりと顔をあげた。



その瞬間、前列だけに留まっていたざわめきが後列にも広がり、騒々しいものとなった。

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