第33話
毎日のように、上様とのお褥の様子を聞かされ、役目とはいえ無表情を装うので精一杯。
今だ、声一つ漏らさないというひろむがいじらしくて、でもどうしろと言うのか。
あの夜、声を出すなという私の言葉に従い、真っ赤に腫れるほど唇を噛んで、私の手の甲に爪をたてながら上り詰めたひろむ。
初めての感覚に、呆然と目を見開いたまま、胸を上下させる姿から目が離せなかった。
いつもならここで止める、ここで終われば何も苦しむ事はない。
手を離し、背を向ければそれで終わったのに。
宙を見つめるその瞳に、自分を映して欲しかった。
祈るような気持ちで口付けると、何かを尋ねるような目で私を見つめてきた。
髪を撫でながらきつく抱くと、背中にそっと手が回された。
愛しくて幸せだった、それと同時に墜ちた自分が沈んでいく感覚にゾッとした。
この先は、上様には秘密。
そう言って抱いた身体、恐らく忘れられないはず。
そんな事をして、お互い苦しむだけだと分かっていた。
ひろむの中に今も鮮やかに残っている記憶、それに苦しむ姿は、私を更に駄目にしていく。
「上様の・・・もの」
無表情にそう呟いたひろむの目から一筋、こぼれた涙に胸が締め付けられる。
抱き締めたい。
が、自分の漏らした言葉に縛られて動けない。
“上様のもの”
初めから分かっていた事だ。
それでも、他人に触れられるひろむを見たくないし、触れたくない。
自分がおかしい事は分かっている、だからせめて心の底に閉じ込めておきたい。
顔を見られたくなくて、ひろむに背を向けた。
「真咲に、ふーを連れてくるよう伝えておく」
「いや、いい」
俯き、小さく肩を震わせていたひろむが、思いのほかはっきりとした口調で言う。
「逢いたい時は、私がお前の部屋に行く」
強い瞳で瀬奈を射抜くひろむ。
いつもの笑顔で返せただろうか。
跳ね上がる鼓動を押し殺す自分が滑稽だった。
ひろむに触れた指先が熱くなり、ぎゅっと握り締めながら、逃げるように部屋を出た。
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