第27話

「霧さま」


女中が席を外した隙を見計らって、まりもが声を掛ける。


気づかれぬよう、仕入れてきた情報を素早くひろむに耳打ちする。


各地で巻き起こっている幕府討伐の動き、特に激化しているのが西の地方。

その地域での有力な領主であるのがひろむの家。


おそらく倒幕勢力を食い止めさせるための、輿入れであったのだろうと。


だが時世の流れには逆らえず、ひろむの家も倒幕の勢力を率いる側に回るであろう事は明らかだとか。


衝撃を隠せないひろむに、更に声を潜めたまりもは続ける。


まだ確かな情報ではないが、ひろむに将軍を討つ手立てをさせた上で、大奥から救い出す計があること。

そして実際にその動きは始まっていて、既に城に手の者が潜入しているという・・・


「私に、上様を欺き里へ戻れと?」


震えるひろむに向かい、口元に指を添え口止めするまりも。

そして、もうひとつ。


まりもの動きを見据えている園加に、ふーの事を探っているように見せかけるため、瀬奈の住居にも侵入したと。


「ふーは無事、元気な様子でした」


嬉しそうに目を潤ませるひろむに


「ふーとよく似た白い犬と一緒に、仲良くしておりました」


「白い犬?」


「おそらく瀬奈殿の、最近飼ったのか、以前から居たのかは分かりませぬが」


ひろむは、ふーのことで安心する一方、すこし後ろめたい気持ちと共にまりもに尋ねる。


「瀬奈は・・・最近奥に来ないようだが、どうしている?」


まりもによると、瀬奈は頻繁に城へ出入りし、幕府の重鎮達と会談をしているとか。


老中に匹敵する権力を持つという階級の瀬奈は、幕府や将軍の立場を守る為の進言を続けているという。


ひろむは、自分ひとりが馬鹿な焦燥感に駆られていた事を恥じた。


そして、倒幕を掲げる者たちの正義も分からないではないが、例え里の者達を敵に回したとしても、自分は今在るべき場所を守ろうと胸に誓った。

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