第4話 【一】星夜ー開かずの部屋③

「みたなぁ~」

「ぎゃー!」

「みゃー!」

 地を這う声が響き渡り、俺は叫んでしまった。パニクったルビーが一目散にドアの外へと走る。戸口には、メガネをかけたボサボサ頭のラン祖母ちゃんが……。


「星夜……見てしまったね」

「ばあちゃん、これは一体なに……?」

「これはね、BL漫画よ。しかも通販かイベントでしか手に入らない『薄い本』よ!」


 叫んだのは祖母ちゃんではなかった。


「ル、ルカ……」

「ルカ叔母さん」


 パジャマ姿のルカ叔母さんの解説が続く。


「しかもこれは、私が沼っていた二次創作ではなく、完全オリジナル。すなわち、一次創作ジャンルの作品ね。ふむふむ。発行が昨年の秋。てことは、『ジェイ庭INオータム』の新刊と見たわ」

「沼って……ジェイ庭? 一次創作?」


 言ってることが、ちんぷんかんぷんだよ。


「ルカが若い頃に同人誌を書いているのは知ってたわ」

「うそー。バレてたのー?」

「叔母さん、漫画描いてたんだ……」

「おほほほ。カップリング、聞きたい?」

「ルカ、星夜はBLのことは分からないから、およしなさい」


 祖母ちゃんが叔母さんをたしなめる。


「え、BLって、ボーイズラブだよね?」

「あら、星夜も知ってるじゃん」

「クラスの女子がスマホで漫画見てたぞ」

「ああー。それは商業の漫画でしょ。ふふふこれはね、もっとすごいんです……」

「ルカ、止めなさい。星夜はまだ十六歳よ」

「これ十八歳以下はダメなんだわ。あと二年待ってね」

「いや、なんとなく想像つくから遠慮しておく」

「やっぱりそれが、一般男子高校生の反応だよね……」


 ラン祖母ちゃんがガックリと肩を落として、戸口から去ろうとしている。不味い。趣味を否定したと思って祖母ちゃんを傷つけてしまったのか?


「いや、俺はBLは好きでも嫌いでもないだけだよ。俺はゲームとか、読書が好きだし」


「そ、そうだよ。趣味は人それぞれだよ! だからお母さんも倉庫に隠しておかないで、自分の部屋に置いたらいいじゃん!」


 ルカ叔母さんが必死で氷点下に冷え込んだ場を取り繕う。

 どうなんだ。フォローは効いたのか?


「そ、そうしようかな……」

「うん、うん。そうしなよ!」

「それがいいよ、ラン祖母ちゃん!」


 俺は素早く漫画本を拾って祖母ちゃんへ渡した。


「ありがとう。星夜は優しいねえ」


 祖母ちゃんは嬉しそうに受け取って、衝撃発言をした。


「実はね、祖母ちゃんはネットでBL小説を書いてるんだ~」


 えええええええ~?

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