第20話

「つか、轟。お前の母ちゃんって今度、海外赴任するんじゃなかったか?」



………え?何だって?



バンドウアオの口からでてきた言葉に私は耳を疑った。それは一番恐れていることだったからだ。




「ああ。夏来さんが滞在しているところに丁度空きがあったらしくて、夫婦で暮らすらしい」



「あの郁世さんが惚れた男かぁ。見てみたいなぁ」



「すごくかっこいい人だ」



話が進んでいく。……いや、待て。ちょっと待て。何、その話は?娘は聞いてないよ?その話、全くの初耳ですが一体どういうことでしょうか?ん?



訳が分からないという顔をしている私にバンドウアオが気づいたのか『フーリンがついてきてねえぞ』と私を親指で差す。この際、人を指差さないでなんてことは言わないから、とりあえずどういうことか説明して。




「あ、あの……それはつまり、今の家には…」



「ああ。俺と2人ということだ」



何、嬉しそうな顔してんだ!!こっちは最悪だよ!!



言いたいことはたくさんあるのに、口にできない悔しさ。まあ、命は惜しい。惜しいけども、これから唯一安心できる家がまさかの地獄になるとは誰が思っていただろうか?




「スズと2人かぁ」



「じゃあ、俺、遊びに行こうっと」



「あ?来るんじゃねえ。邪魔だ」



「え~、いいじゃん。ね、箱入りちゃん」



答えを求められるが、『ぜひどうぞ』と誰が言うものか。そりゃあ、乱さんと2人という状況も勘弁してくれと言いたいところだが、そういう問題でもない。家が不良の溜り場になるなんて、以ての外。




「スズも迷惑だって言ってる」



「言ってねえだろ。思ってるかもしれねえけど」



「……スズも迷惑だと思ってる」



「別に言い直さなくていいっつーの。面倒くせえな、お前」



この中で一番まともそうなバンドウアオ。やっぱり、一番年上だからだろうか?視線を彼に向けていると、合ってしまい、しまったと思ったが、彼から視線を外した。

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