Epilogue

これが、年上の彼女と自分との物語・・・



付き合った期間は、ギリギリ一年に満たない程度だけれど、自分にとっては十年分くらいの長さに感じるくらい、楽しくて充実した日々だった。



美人で年上だけど、面白くて、可愛くて、優しくて、

そして誰よりも自分の事を愛してくれた彼女・・・



その後、やっぱり彼女と同じような事が要因にもなって、結局S子とは半年程度で別れてしまい、留学のタイミングも逸してしまったけれど、留学用に貯めた資金で翌春から専門学校に通い、ちゃんとした会社にも就職する事が出来た。


そして、専門学校の時から付き合い始めた年下の女性とやがて結婚もしたけれど、今でも彼女の事が好きだったという感覚は心のどこかに残っている。


彼女が強く勧めてくれた留学は出来なかったものの、自分の将来を潰さない為にと身を引いてくれた彼女の期待には少なからず応えてあげられたとは思っているし、そのおかげで今の恵まれた生活があるのかと思うと、もはや彼女には感謝しかない。



あれからもう30年以上の時が過ぎ、彼女が住んでいたマンションは別の建物に変わり、勤めていたスタジオや、二人でよく通ったお店もどんどん無くなってしまい、もう当時の面影や痕跡はほとんど残っていないけれど、二人で過ごしたあの日々の事を忘れる事は無い。


その後、彼女はどんな人と結婚し、どんな人生を送って、今はどうしているのだろう・・・


浮気などしない真面目な男性と巡り会えて、ちゃんと結婚出来たのだろうか・・・


あの時あげた写真は、やっぱりもう捨てられてしまったのだろうか・・・


自分との関係は、彼女の中でいい思い出となっててくれてるのだろうか・・・



何も知らない人から見たら、ただお互いの欲望を満たす為に付き合っただけの不純な関係にしか見えないかも知れないけれど、

お互いに本気の恋はしたくないと言いながらも、

あの時、二人は本気で愛し合っていたのだ・・・


それを不純などと、誰にも言わせるものか。

むしろこれ以上に純粋で崇高な恋愛なんて無いと言ってもいいくらいだ。



正直、あんなに辛い思いをしてまで別れる必要は無かったんじゃないか・・・とか、

あのまま付き合っていてもなんとかなったんじゃないかと、今更ながら思う事もあるけれど、あれほど深く愛し合っていながら、それでも別れるという道を選んだのは、

いつか彼女が言っていた「夢は夢のまま残す方がいい時だってあるから・・・」

という事なんだと思う。


きっと・・・彼女は、結婚という現実の世界に入る前に、もう一度恋愛という夢の世界に浸ってみたかったのかも・・と、そんな気がしているけれど、

当時の自分もそれになんとなく気付いていて、たとえ少しの間だけだったとしても、その夢を叶えてあげたいと思っていたのは確かにあった気がする。


それは、長い人生の中で見たら、ほんの一瞬の出来事にしか過ぎないのかも知れないけれど、あの時にしか出来なかった事なのだ。


同じ境遇の彼女と出会えた事も奇跡なら、年齢差がありながら付き合えた事も奇跡。


だから、彼女と別れてしまった事に対する後悔や未練は無い。


いや、全く未練が無い訳では無いけれど、

それでもいいと決めたからこそ、

彼女も・・・そして自分自身も覚悟した上で付き合う事にしたのだ。


そして、あの別れがあったからこそ、

いい思い出として残す事が出来たのだと思っている。


そんなドラマチックな恋愛が出来た事、そして彼女と付き合う事が出来た事は、たとえ記憶の中にしか残っていなくても、自分にとってはかけがえのない宝物なのだ・・




当時とは街の景色も何もかも変わってしまったけれど、彼女といつも笑いながら話していた歩道橋はまだあちこちに残っている。


その歩道橋を見る度に、あの楽しくて光り輝いていた日々を思い出す。


自分はすっかりおじさんになり、彼女ももうおばちゃんの年齢になってしまっているけれど、もしまたどこかで出会う事が出来たなら、あの頃と同じように歩道橋の上で笑いながら話をしたいと、心からそう願っている・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

それが二人のルール @SS213

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ