Chapter 28

そして、二人で食べる最後の朝食を食べた後、彼女の部屋を出る。


「じゃあ・・・KTさん、お元気で・・・」


「また電話でいつでも会えるから・・・」


「そうですね・・・いつも会ってた週末と、声が聞きたくなったら、すぐ電話しますから・・・」




「ねぇ、S君・・・」


「ん?なんですか?」


「0時過ぎちゃったけど、最後に思いっ切り抱きしめて欲しいな・・・」



「いいですよ・・・」


そして、彼女を強すぎないようにギュッと抱きしめる。


それに答えるように彼女も腕を腰に回して抱き返して来た・・・けれど、

どんどん強く抱きしめて来て、彼女は全然離そうとしなかった。



胸に顔を押し付けていた彼女から鼻水をすする音が聞こえ、震える声でお別れの言葉を言う彼女・・・


「こんなおばさんと今まで付き合ってくれて、本当にありがとう・・・いつも・・ホントに楽しかったよ・・・」


「絶対に、絶対に! S君の事忘れないからね・・・」


自分は、泣き顔を見せまいとする彼女の頭を抱えながら


「もうおばさんって言わないって、言ったじゃないですか・・・こんなに可愛い人をおばさんだなんて、全然思ってませんから・・」と優しく返す。



すると、彼女は急に泣き出して、


「だって! こんなに年上じゃなかったら、ずっと一種にいられたんだよ!!」


と・・・


今まで一度も見たた事がない彼女の泣きじゃくる姿に戸惑いつつも


「違いますよ・・・自分がもっと早くそれに気付いて、すぐにちゃんとした仕事を見つけなかったからダメだったんです・・・」


と、ちょっと焦りつつも優しくなだめる・・・


ずっと泣いたままの彼女・・・


「S君の方が、全然大人なのに・・・・・どうして・・・・・」


返す言葉が見つからず、

ただ彼女を抱きしめてあげる事しか出来ない、情けない自分・・・



別れを切り出したのは彼女の方からだけど、本当は、彼女の方が自分より何倍も別れたくないと思っていたのだと、その時は全然気付いてあげられなかったけれど、今はそれが痛いほどよく解る。



30を過ぎてからの4歳差なんてほんの誤差程度だけれど、20代の4歳差はとてつもなく大きい・・・


この、どうあがいても追い付けない年齢差が、本当に悔しくてたまらなかった。




しばらくして、なんとなく彼女は落ち着きを取り戻して来た。



「すいません・・・辛い思いはさせたくないって思ってたのに・・・」



「ううん・・・私の方こそごめんね・・・」



「でも、KTさんみたいな素敵な人と楽しい時間を過ごす事が出来て、ホントに感謝してます。自分も絶対にKTさんの事忘れたりしませんから」


言いたい事は色々とあったけれど、彼女を刺激しないように、これだけ言うのが精一杯だった。



「うん・・・ありがとう・・・」



「大丈夫ですか・・・?」



「もう大丈夫・・・じゃあ、笑ってバイバイしよっ」


「ハイ・・・」


そしてマンションを出て、彼女はベランダから、姿が見えなくなるまでバイバイして見送ってくれた。


それが・・・最後に見た彼女の姿だった。


もう彼女に会う事も、あのマンションに通う事も無くなるかと思うと、悲しさとか寂しさしか出て来ないけど、ちゃんと学校に行き直して、マトモな人生を歩むのが彼女への恩返しになるのだと、そう思って前向きに歩く事にした。

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