Chapter 25

彼女と慰め合う日々になってからは、日曜日でも昼前後に帰るのでは無く、栄や大須、名駅等で買い物とかに付き合ってから帰る事もあったけれど、たまには遊園地とかテーマパークみたいな場所でデートしたいねと言いつつも結局行けず仕舞だった。


なのでデートらしいデートと言えば、関係がスタートした当初からの夜の外食ばかりだったけれど、クリスマスくらいはちょっとイイお店に行きたいねと、二人でオシャレな格好をしてフランス料理店でフルコースなんて、薄給の二人にしては珍しく贅沢をしてみた。



「ハイ、カンパ~イ♪」



「なかなか洒落たお店じゃんね~。あーモエなんて飲むの何年ぶりだろうー」


「自分は1年ぶりくらいですかね・・・」


「え?つい最近じゃん。スタジオ来る前は、結構稼いでたとか?」


「前の会社でよく飲みに連れてってくれた人がいて、奢ってもらっただけですよ」


「ふーん、その人お金持ちだったとか?」


「どうですかね?同じ会社の35歳くらいの男の人ですけど、独身だったからお金は持ってたかも」


「男の人は30過ぎると給料いいもんね~」


男女雇用機会均等法なんて無くて、まだ男女の給与格差が大きかった時代・・・


「そう言えばその人も毎週のように飲みに誘ってくれてましたね」


「フフっ、解るよ。S君て、なんか誘いたくなっちゃうもん」


「そんなに話し上手でも無いし、面白くもなんともない奴だと思いますけど」


「そんな事無いって。でもS君はどっちかというと聞き上手なんだよね~」


「そうですかね?」


「男の人って、興味ない話だと上の空で聞いてたりするじゃん。S君はそういうのが無いんだよ」


「です・・・かね」


自分では気付かない、他の人も言ってくれない自分の一面を、彼女はいつも教えてくれる。


「テーブルマナーとかもさー、一体どこで学んだの?」

「若い子って、こんなお店来たらどうすればいいか迷っちゃいそうなのに」


「こんなにいいお店じゃ無いですけど、高校の時にレストランでずっとバイトしてたんで、それくらいは・・・」


「ふーん、いろいろ経験してるんだね~」


「でもこんな高級なお店なんて初めてだからドキドキですよ(笑)」


「あ、私も。ちょっとドキドキだよね、フフっ(笑)」


「KTさんなら、こういうお店慣れてそうかなって思ってましたけど・・」


「えー、こんないいお店連れて来てもらった事なんて無いよー」


「でも、前の彼氏とかって、年上でそれなりにお金はあったんですよね?」


「だって、すかいらーくでプロポーズするような人だったんだよ~(苦笑)」


「プッ(笑)」


「ね、ビックリでしょ(笑)」


「それは・・益々結婚しなくて正解だった気が・・(苦笑)」


「フフフっ、まー私から「早くプロポーズしてよ!」って言ってたんだけどね(笑)」


なんとなく、元婚約者も彼女の押しの強さに負けて婚約まで持ち込まれちゃったのかなって気がしなくも無いけど、それでも彼女と結婚寸前まで行けたのは羨ましいと思った。


自分達の先にあるのは、結婚では無く、別れしかない。

それを承知の上でこういう関係になったのだけれど、彼女と別れたくないという気持ちが日に日に大きくなるばかりだった。



「S君ごちそうさま~♪」


「なんか緊張しちゃって、美味しかったのかどうかもよく判らなかった気がする・・・(苦笑)」


「最後のケーキと、チョコのアイスみたいなのは美味しかったけどね(笑)」


「あ、自分も、そこしか印象に残ってないです(笑)」


「フフっ(笑)、でも奢ってもらっちゃって、本当によかったの? 結構高かったでしょ」


「一度KTさんをこういうお店に連れてってあげたいなって思ってたんで、全然いいですよ」


「ありがと(笑)。でも、クリスマスをこんな風に過ごせるなんて、なんか夢みたい」


「KTさんには、それだけの価値があると思ってるんで・・・」


「フフフっ、そんな事言われたら抱かれたくなっちゃうじゃん(笑)」


「ホストやジゴロはそうやって女性を落とすらしいですよ(笑)」


「ははーん、さては私を落とそうとしてるでしょ(笑)」


「どっちかというと自分が落とされた感じじゃないですか~(苦笑)」


「フフフっ、次は魔性の女で行こうかしら(笑)」



「・・・こんな可愛い魔性の女なんていませんから・・・」


と、彼女を優しく抱きしめてキスをする・・・


「あれ、S君いつもと反応が違う・・・けどなんか嬉しいよー(泣)」


「クリスマスなので特別です・・・」


「フフっ、ねぇねぇ、早くウチに行こうよっ♪」


「夜はまだ長いですから、そんなに急がなくても・・・」


「早く早くーっ♪」




一人8,000円のコースにシャンパン代で、約20,000円超のクリスマスディナー。


彼女と過ごす、多分最初で最後のクリスマスになるだろうと、自分にしては珍しく頑張ってみたけれど、彼女のとても嬉しそうな笑顔が、嬉しくもあり、悲しくもある、そんな複雑な気持ちのクリスマスだった・・・


ずっと前に彼女が言っていた

「本気になっちゃうと、ちゃんと付き合えて一緒にいたとしても、辛い事ばかりだもんね・・」

ってのは、こんな気持ちの事を言っていたのかなと・・・


そんな事ばかりを考えるようになって来たのは、この時すでに、もう別れの時が近い事を感じ初めていたのかも知れない。

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