Chapter 17

彼女が住むマンションは、K駅から少し離れた場所だったけれど、夜は割と静かで、

マンション自体もそんなに古くない、なんとなく女性向けっぽい、4階建ての小綺麗なマンションだった。


部屋の大きさは6畳よりも、もう少し広めなワンルームで、当時主流だったバスとトイレが共用になったユニットバスでは無くて、それぞれ別に設置された、なんとなく二人でも住めそうな感じの部屋だった。


簡単なワードローブが備え付けられていたので、タンスは無く、家具もベッドと小さなテーブルにカラーボックス程度で家電も14型くらいの小さなTVに、ラジカセ、電話、小型冷蔵庫、トースター、洗濯機に、エアコンと、秋になって使わなくなった扇風機が部屋の片隅に置いてあるくらいの、割と殺風景な感じだったけれど、丁寧に整理整頓されていて、なんとなく、彼女の几帳面な性格が出ているようだった。


そして壁には、いくつかの写真と一緒に、自分があげた写真の一枚が黒枠のシンプルなフレームに入れられて、ちゃんと飾られていた。



「ソファーも座布団も無いけど、ベッドに座ればいいよね」


「あ、どこでも全然大丈夫です」


「あの・・・本当に写真飾ってくれてたんですね・・」


「そうするって言ったじゃん(笑) お世辞や義理で好きって言ったと思った?」


「あ、いえ、なんか嬉しくて・・・」


「フフフ、これ見ながらいつもS君の事考えてるんだよ(笑)」


なんだか、あの時以来、彼女の発言がどんどん積極的になって来てる気がした。


「あ、自分も毎日KTさんの事ばかり考えてる気がします・・週末が待ちきれなくて・・」


「フフフ、ここで同棲でも始めちゃう?(笑)」


「ダメですって、もう。どうして駆け落ちとか同棲みたいな背徳感のある関係がそんなに好きなんですか?(苦笑)」


「え?(笑)なんか、そういうのに憧れない?(笑)」


「変なドラマの見過ぎですよ、もう。そんなの不幸な結末しか待ってないじゃないですか」


「じゃあ純愛路線で行く?(笑)」


「襲ったら噛み付くなんて言ってる人と、純愛なんて余計無理ですから」


「えーじゃあ何がいいかな?」


「何も考えなくていいですって(笑)」


「年下の彼との禁断の恋、なんてピッタリじゃんね(笑)」


「その禁断の部分が重要なのに、二人のどこが禁断なんですか、もう(笑)」


「禁断の恋をされた者同士の禁断の恋って、ダメかなぁ?(笑)」


「だから自分達の方は、全然禁断になってませんてば(笑)」


なんとなく、この、ボケとツッコミの関係がすっかり出来上がって、

多分、下手なカップルよりもずっと仲のいい、でも正式には恋愛関係に無い、

この不思議な関係が、その時は楽しくて仕方なかった。


いや、もうそのボケ方がホントに可愛くて、抱きしめたくなる気持ちをいつも抑えていた。


でも、こうして二人で話している内に、過去の事なんて、もうどうでもよくなって来て、それを引き摺るような事も、思い出すことすらも、気が付いたらほとんど無くなってしまっていた。


多分、彼女の事ばかり考えるようになって来てたのが良かったんだと思うけど、

それは、きっと彼女も同じだったと思う。

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