Chapter 15

ニコニコと笑顔で自分の方を見ていた彼女に近付いて、ちょっと照れながらも彼女をお姫様抱っこすると、彼女は「え?」と、ちょっと驚いた顔をしたものの、

恥ずかしそうにそっと腕を自分の首に回してしがみ付いて来て、そのまま

転ばないように緩やかな階段側の自転車のスロープの所を恐る恐る歩き始める。


手相勝負(笑)や、指相撲(笑)で、彼女の手に触れた事は何度もあったけど、

体に触れたのは初めてで、しかも密着した体から彼女の温もりが伝わって来て、

ちょっとドキドキしながらゆっくりと下りる。


その間、彼女は珍しく何も言わずに、自分にギュッとしがみ付いていたけれど、

そんな彼女の体は、見た目から受ける印象よりも細く小さく、そして軽かった。



それは・・・なんとなく酔いに任せて勢いでやってしまったけれど・・・

それまで・・・彼女に対して、上手く抑えられて来た気持ちが、急に溢れ出しそうになって来たのを感じた。



そしてそれは、彼女も同じだったと気付く事になる・・・



「あ、ありがとう・・・」


珍しく真顔


「ん?・・・どうしたんですか?」



「本当に抱っこしてくれるなんて思わなかったから、ちょっとドキドキしちゃった・・・」



「あ・・実は、自分もずっとドキドキしてました」


「足元が見えないからつまずきやしないかと、もう心配で心配で・・・(笑)」


「え?何?そっちのドキドキ?(笑)」


「やっぱり私じゃ、ときめいたりしないかー(苦笑)」



「ウソですよ、もう(笑)。こんな事久しぶりなんで、もう心臓バクバクでしたよ」



なんとなく、また真顔になった彼女から、意外な質問・・・




「ねぇ・・・久しぶりだからってだけ?」




「え?・・・どういう事です?」




「私だからドキドキした訳じゃないって事?」


(え?)


いきなりドストレートな質問が来て、ちょっと焦る。



「やっぱり今日は、いつもより酔いすぎてません?(汗)」



「誤魔化さないで・・・ちゃんと答えて」



「・・・KTさんは、自分だからドキドキしたんですか?」



「私の質問に答えてくれたら教えてあげる」



「タマにははぐらかさないで本当の事言って欲しいな・・・」



マズい・・・少し酔ってるとはいえ、これは間違いなく本気モード・・・(汗)


それまで、ずっとお互いにカマを掛けては、それをまたお互いにはぐらかし続けて来たけれど、まさか、こんな所でいきなり恋の駆け引き状態に陥るとは・・・


これは明らかに彼女に火を点けてしまった自分の失敗だと思った・・・


そして、彼女にいきなり先手を取られてしまった自分は、逃げ場が無くなって危機一髪の大ピンチ。


彼女が期待しているのは、いつもの冗談の答えなんかじゃない・・・


ここでまたはぐらかしてしまったら、間違いなくこの関係にヒビが入る事になってしまう気がする・・・


それを避ける為には、もう、白旗をあげるしか無かった・・・いや、とっさに頭が回らなくて、もう正直に言うしかないと思った。




「あの・・・多分KTさん以外の女性だったら、こんなにドキドキしなかったと思います・・・」



「フフっ、それは・・・私の事が好きって事でいいかな?(笑)」


「ハイ・・・(照)」


すると、彼女は急に笑顔になって近付き、


「嬉しい・・・私もそうだよ♪・・・」


と耳元で囁いてくれた。



それまでの、冗談交じりで言っていたのとは違うLOVEの「好き」をお互いに認めた瞬間・・・


それはもうずっと前からお互いに分かっていた事なのだけれど、それをどちらが先に言うのか、もはや根比べみたいになっていたような、そんな感じだったのだ。



そして、それを先に言わされた自分は、すっかり敗北者の気分。


「うーん、先に言わされてしまった(泣)・・・」

「なんかメチャクチャ恥ずかしいんですけど・・」


「フフフっ(笑)」


と言って、彼女は腕にしがみついて来た。


「でも、やっぱり口説いたりしませんからね(苦笑)」


「フフフっ、いいわよ(笑)」


勝ち誇った言い方をする彼女(笑)


「なんだか凄く悔しい・・(苦笑)」


負け犬感たっぷりな自分。


「フフフ、伊達に4年長く生きてる訳じゃないのよ(笑)」


「さぁ、女王様の前に跪きなさい♪(笑)」


「もう・・・それ、すっかり気に入っちゃってますね(汗)」


「フフフっ(笑)」


「来週はお酒禁止ですからね」


「えーまた飲みたいな(笑)」


「ダメですってば(苦笑)」


「いいじゃんいいじゃん♪」


「ダーメーでーすー(笑)」


ちょっとシリアスな雰囲気になりかけたものの、お互い照れを隠すかのように、

すぐいつもの少しふざけた会話に戻ったけれど、でもそれは、二人の距離が一歩近付いた瞬間だった。


それは、ほんの小さな出来事のようにその時は思っていたけれど、でも間違いなく二人の大きな変化点だった。

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