Chapter 14

彼女の事を恋愛対象として意識し始めるようにはなって来たものの、それ以上の関係になってはいけないという思いが強く、どちらかというと受け身な状態ではあったけれど、でも二人の関係は着実に進行しつつあった。



「今のスタジオって、自分はせいぜい1年くらいが限度かなって思ってますけど、KTさんはいつまで続けるんですか?」


「早く抜け出して普通の仕事に戻った方がいいような気がしますけど・・・」


「んー、なんかもう普通の仕事に戻れない気がするんだよねー」


「ほら、今のスタジオってさ、そんなに忙しくないから、割とのんびり出来るじゃん(笑)」


「自分は結構忙しいですけど(苦笑)」


「アシスタントやってたら仕方ないよ。私も手伝ってあげられないしさ」


「でも、時給とか低くて大変じゃないんですか? マンションだって市内は家賃高いだろうし」


「ワンルームの小さなマンションだからそんなに高くないよ。それにまだ貯金もあるし、結構節約もしてるから」



「あーあ、誰か絶対浮気しない人が私の事貰ってくれて、楽をさせてくれないかなー」


「それは・・・自分に口説けって言ってます?(笑)」


「え?楽をさせてくれるの?(笑)」


「今はちょっと無理ですけど・・・」


「そうだよねー。私も、もうちょっと若かったらよかったのになー」


「S君も留学するのはいいけど、早くちゃんとした仕事見つけなよ。でないと誰もお嫁に来てくれなくなるよ」


「まだそんな気に全然ならないですし・・・仕事も・・結婚も・・・」


「まぁS君なら仕事さえちゃんとしたら、結婚してくれる人なんてすぐに見つかるから大丈夫か・・・」


「いやいや、全然モテたりとかしませんから」


「そうかな? 結構イケると思うんだけど」


「自分なんて、いいとこ並クラスですよ。中学や高校の時は多少モテたけど、卒業してからは誰からも声とか掛けられないし」


「私が声掛けたじゃん」


「それは別の理由じゃないですか。 自分があの時メチャクチャ落ち込んでたからでしょ」


「それもそうだけど・・・・本当にそれだけだったと思ってる?(笑)」


この、なんとなく思わせぶりな発言が、日が経つにつれ、なんとなく多くなって来たような気がしていた。

それは自分も同じだったけれど、でも、何かを恐れるように、お互いにそれをはぐらかしてばかりいた。


きっと、その頃からお互いに恋愛感情が出て来てるのを感じつつも、

それをなんとか打ち消そうとしていたのかも知れないし、

互いにお互いの事をどう思っているのかを探り合ってるような、そんな気もした。


「なんですかその意味深な発言は(苦笑)」

「手玉に取れそうな若造がやって来たから、下僕として弄んでやろうとでも思ったんでしょ?(笑)」


「フフフっ、KTさんじゃなくて、女王様とお呼びっ!(笑)」


「ハイハイ、女王様(苦笑)・・・何か御用でしょうか?」


「フフフ、私を抱っこして(歩道橋の)下まで下ろしなさいっ(笑)」


「イヤですよもう。誰かに見られたら恥ずかしいじゃないですか、なんか危なそうだし・・・」


「女王様の命令よ!(笑)」


「分かりましたよ。やりますよ、もう(苦笑)・・・ちょっと今日は酔いすぎてません?」


「フフフ、私達って、いいコンビだよね(笑)」


「二人で漫才でも始めます?」


「それ、いいかもね(笑)」


「早速コンビ名とか考えないで下さいよ(苦笑)」


「え?考えてるのバレた?フフっ(笑)」


「言わなくていいですからね。早く下りてそろそろ帰りましょうよ」


「せっかく考えたのに。聞いてほしいなー(笑)」


「絶対人の嫌がりそうな名前しか考えないじゃないですか~(苦笑)。言わなくていいですからね」


「残念だなー(笑)」


「KTさんて、最初はもっとクールで物静かな女性かと思ってたのに・・」


「ちょっと幻滅した?(笑)」


「あ、いえ、こういうの嫌いじゃないです・・(笑)」


「フフっ(笑)」


お酒を飲んで気分が乗ってる時の彼女は、年上とは思えないくらい、とにかく可愛かった。


ただ、それでもそれ以上の関係を望む事まではそこまで強く考えてなくて、ただ彼女と共有出来るこのひと時を楽しみたい、この時間を失いたくないと、その時はそんな風にしか考えていなかった。


それはきっと、彼女も同じ気持ちだったと思うけれど、それが変わったのはそのすぐ後の事だった。

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