Chapter 12

二人で会って話す時は、大抵どこかのお店に行って食事をしながら話し、

お店を出てまだ話し足りない時は、街中にあるH大通り公園のベンチとかで話す時もあったけど、何故か彼女は歩道橋の上で話をするのがお気に入りで、

帰り道の途中にある歩道橋の上の、丁度真ん中あたりで話の続きをする事が多かった。


「あの・・どうしてそんなに歩道橋の上が好きなんですか?」


「え?だって、ここだったら夜中に話しててもあんまり迷惑にならないし、誰も来ないから邪魔されなくて丁度いいじゃん」


「それに・・・なんだか好きなんだよね。車がたくさん走ってるのを上から見てるのが・・・」


「この車の人はこれから家に帰って、家では家族が待ってて一緒にご飯食べるのかな~とか、この人はまだ仕事なのかな~って、勝手に想像するのって、なんか楽しくない?」


「こんなとこで下をずっと見てたら自殺でも考えてるのかと思われちゃいますよ」


「こんな夜に歩道橋の上なんて誰も見てないって。それに、二人でいればカップルに見えるから大丈夫だよ」


「心中ってパターンもあるじゃないですか」


「フフフ、一緒に心中でもする?(笑)」


「そういうのは駆け落ちした恋人とか、不倫相手とするもんですよ」


「あ、二人で駆け落ちってのも、なんかいいよね」


「そんなの、まず、親に反対される所から始めないと成立しまませんから」


「えーでも今のS君だったら、きっと反対されると思うけどな(笑)」


「結婚しようとしてる訳でも無いし、そもそも恋人同士でもないのに、何を反対されるんですか、もう。お酒飲みすぎですって(苦笑)」


「そっか、じゃあ結婚してみよっか(笑)」


「またそんな心にも無い事言って(苦笑)。駆け落ちなんて興味ありませんから、そんなにしたいなら他の人とやって下さいよ」


「えーだって、私の周りってS君しかいないじゃん」


「KN(兄弟子)さんとか、KTさんにいつもモーション掛けまくってるじゃないですか」


「S君が女の子だったら、KNと付き合いたいと思う?(笑)」


「絶対無理です!(苦笑)」


「でしょ。KNと付き合うくらいなら、ここから飛び降りて死んだ方がマシだって」


「あの・・・否定はしません(苦笑)」


「フフフ(笑)」


と、そんな風に歩道橋の上でいつも話してる内に、自分もなんとなくこの歩道橋の上で話すのが好きになって、

食事した帰り道は、そこで話すのが当たり前になっていった。




「でも・・KTさんて、ホントKNさんの事を嫌ってますよね(苦笑)」


「え?だって、あいつのせいでアシスタントで来た子達がみんなすぐに辞めてっちゃうじゃんね。せっかくみんな夢を持って来てるのに可哀想じゃん」


「自分が入る前の事はよく知りませんけど、あれじゃ普通は続きませんよね」


「右も左も分からずに来る子ばかりなんだから、最初からテキパキ動ける訳無いのに、ホント酷いよ」


「でも・・・そういう世界ですからね」


「S君はそれを知ってて入って来たんだろうけど、新卒で来た子なんかは何も知らずに来てるから、初日から怒鳴られたらビックリしちゃうじゃんね」


「Tさん(社長)も結構乱暴な言い方しますしね」


「でもTさんはそこまで理不尽な事言わないじゃんね。教えなきゃいけない事はちゃんと教えてるし」


「そこまで教えてもくれないけど(苦笑)、まぁ、KNさんよりは全然マシですよね」



「でも・・・S君って、真っ先に辞めるかと思ってたのに、メチャクチャ打たれ強くて、ホントビックリしちゃったよ」


「そんなにすぐ辞めそうでした?(苦笑)」


「あ、うん、他の子達より大人しい感じというか、全然元気無さそうだったし(笑)」


「基本、ネクラな奴ですからね(苦笑)」


「うん、真っ暗だった(笑)」


「そんなネクラに声を掛ける物好きな人がどこかにいましたけど(笑)」


「私もネクラだから丁度いいじゃん(笑)」


「マイナス同士だとプラスになるって思考ですか(笑)」


「フフっ、いい事言うね」


「でも、こんなトコKNに見られたらビックリするだろうな。二人共、スタジオにいる時と全然違うし(笑)」


「一緒にいる所見られるのはちょっとマズいですね~。KNさん、絶対KTさんに気があるし」


「なんかね。私は全然その気がないってのをアピールしてるつもりなんだけど・・」


「こんな風に二人が会ってるって知ったら、絶対妬まれそうで恐いですよ」


「色目使うのはモデルさん達だけにすればいいのに・・・誰も相手にしてくれないと思うけど(苦笑)」


「時々、(モデルの)誰々ちゃんと飲みに行ったって自慢話してますけど、よくよく聞いてると何人かで行ってるだけですしね」


「あいつと二人っきりとか絶対無理だって。恋人とか思われたら嫌じゃん!」


「ホント、嫌ってますよね~(苦笑)」


「生理的に絶対受け付けないタイプだから・・」


「でも自分といても、恋人同士に見られてるかもですよ。同じ店に二人で何度も行ってるし」


「S君はいいのよ。どう見られても私は全然気にならないから(笑)・・・・S君は気になる?」


「あ、いや、全然気にしてないですけど、他人から見たらやっぱり恋人同士に見えてるのかなって・・・」


「フフっ(笑)、こんな年上と恋人同士に見られるの恥ずかしい?」


「いやいや、そんなに年が離れてるようには見えてませんって」

「恋人に見られても全然恥ずかしくないし(むしろ嬉しいくらいだし)」


「そう? じゃあ、まだまだ付き合ってね(笑)」


「一生付いて行きます!(笑)」


「プッ(笑)、何言ってんの、もう(笑)」


とりあえず恋人同士に見られてもいいと思ってくれている事は嬉しかったけれど、

恋人同士という関係じゃなくても、スタジオの人にはこうやって二人で会ってる事がバレないようにと、そればかりをいつも気にしていた。


そればかりか、仲が良い事すらも悟られないように、スタジオ内では仕事関係以外の話をする事はせず、スタジオで二人きりになった時でも、時々ヒソヒソ話をする程度で、ほとんど会話をする事は無かった。

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