Chapter 11
彼女との会話は、お互いの身の上話とか、スタジオ内の事、音楽やファッションみたいな雑談的な事まで、なんでもかんでもネタにして話をする事が多かったけど、話していて色々と学ぶ事がとにかく多かった。
特に女性の思考というか、考え方みたいなのはとても勉強になったし、それが今でも結構役に立っていたりもする。
また、年が若い自分に対して、留学の話みたいに、提案というか、こうした方がいいよ、ああした方がいいよ・・みたいな、アドバイス的な事もよくしてくれて、ある意味先生みたいな存在だったと言ってもいいかも知れない。
「S君はさー、まだ結婚とか考えたくないって前に言ってたけど、好きな人とかっていないの?」
「え?好きな人?・・・うーん、KTさんくらいしかいないかな?(笑)」
「何その「くらいしか」って残り物みたいな言い方は(苦笑) 」
「全然嬉しくないんだけど」
「いや、あの、残り物って意味じゃなくて・・・(汗)」
「フフフ、解ってるわよ(笑)。他に心当たりの人が誰もいないんでしょ?」
「ですね・・・」
「でも私の事は、LOVEじゃなくて、せいぜいLIKEだもんね」
「滅茶苦茶スーパーLOVEに決まってるじゃないですか!(笑)」
「顔が笑ってるって(笑) LOVEならとっとと口説いてみなさいって」
「しませんってば」
「フフフ。S君てホント面白いよね(笑) 女の子の友達とかたくさんいてもおかしくないのに」
「誰かと付き合ってたら、その子が気にしちゃうから、女友達作って遊んだり話したりって、あんまり出来ないじゃないですか」
「浮気に発展しちゃう事もあるしね(苦笑)」
「KTさんみたいに素敵な恋人がいるのに、その友達と浮気するなんて、大バカ者ですよ」
「ウソでもそう言ってくれると嬉しいな(笑)」
「ウソじゃ無いですよ。こんなに美人で楽しい人が恋人だなんて、最高じゃないですか」
「ほらほら、早く口説いてしまった方がいいと思うよ(笑)」
「そんなに口説かれたいんですか?(呆) 」
「だって、年下の子に口説かれたなんて、なんか、友達に自慢できそうじゃん(笑)」
「もう恋愛はコリゴリなんて言ってる人を口説いても時間の無駄じゃないですか(苦笑)」
「フフっ、そうだね・・・」
「恋愛って・・・裏切られたりしなきゃまだいいんだけど、本気になっちゃうと、ちゃんと付き合えて一緒にいたとしても、辛くなっちゃうから・・・なんか難しいよね・・・」
「そう・・・ですかね・・・?」
正直、その時の自分にはその意味がよく解らなかった。
「S君はM子さんと付き合ってて、辛いと思ったことなかったの?」
「あ・・・自分は・・・M子の事、ずっと本気で好きだと思ってたけど・・・思い返してみたらそこまで本気じゃなかったかも知れないって・・・」
「でも、結婚まで考えてたんでしょう?」
「それはそうですけど・・・」
「何か引っ掛かってた事でもあるの?」
「M子はすっごく可愛くなってくれたし、性格も良くて、浮気さえしなければホントに申し分無かったんですけど・・・」
「申し分無かったんだけど、何?」
「実は、他にずっと気になってた人がいて・・・」
「ええっ?そうだったの?」
「ハイ・・・M子の親友だったんですけど・・・」
「え?・・・それって、まさか・・・」
「ハイ、M子が不倫してる事を教えてくれた・・・S子という子なんですけど・・・」
「それは・・・ひょっとして私の彼みたいになりかねなかったって事?」
「あ、それは無いです。自分は浮気とか人を裏切るなんて絶対したくないなんて思ってますし、S子も同じですから・・」
「そっか、そんな事する子だったら、友達の浮気の事なんて教えてくれたりしないもんね」
「ハイ、正義感の塊みたいな女の子なので・・・」
「ふーん、M子さんと付き合ってたけど、その友達の事好きになっちゃったんだ」
「あ、いえ、実はM子と付き合う前からS子の事が好きだったんですよ・・・その・・・高校を受験した時から・・・」
「えっ?そんなに前から?」
「受験会場行く時に一目惚れして、偶然にも同じ教室の、しかもすぐ近くの席で試験を受けたという・・・」
「だから高校で知り合う前から自分だけは知ってたって事です」
「え?え?何?・・・なのにどうしてM子さんと付き合っちゃったの?」
「M子から告白されたって前に言いましたけど、その時にM子の手紙を持って来てくれたのがS子なんですよ」
「で・・・とても断れなかった?」
「ハイ・・・」
「ふーん、それはちょっと複雑な心境だよね」
「それに・・これでS子と知り合えるなんて下心もあったかなと」
「ただ、S子は自分の事なんて全然眼中に無かったと思いますけど・・」
「友達が好きになった男の人って感覚しかなかっただろうねーきっと・・・」
「と、思います。」
「でもさ、なんか、その子と物凄く縁が繋がってる感じがしない? 高校入る前から知ってて、その友達と付き合うキッカケとか、別れた時も彼女が関わってるでしょ。偶然にしては出来過ぎてない?」
「そうなんです。不思議とよく関わってしまうんです。M子との伝言役とか、交換日記もずっとS子が受け渡し係をしてくれてたんで、S子と自分が付き合ってると勘違いされてたくらいだったし・・」
「で、今でも好きなの?」
「好きといえば好きですけど・・・でもS子が浮気の事教えてくれてM子と別れたってのはきっとみんなに知れ渡ってるから、付き合うどころか会う事すら出来ないし、多分もう彼氏とかいるだろうから、もうとっくに諦めてます。」
「ふーん、でも、確かにそんなややこしい関係になっちゃってたら流石に無理だよね~」
「もし付き合えたとしても、絶対周りから変に勘ぐられそうだし」
「M子以外で一番近くにいた子が一番大好きな子なのに、一番付き合っちゃいけない子ってのがメチャクチャ皮肉ですよね」
「いくら好きでも、それはちょっと諦めざるを得ないかな・・・」
「ハイ、なのでもう一生会う事は無いと思って諦めてますけど・・・」
「S子さん以外に好きな人とかっていなかったの?」
「多分本当に好きだったと言えるのは彼女くらいですね。 なんとなく好きとか可愛いなって子は保育園時代から何人もいましたけど(笑)」
「え?ちょっと、そんな頃から?(笑) 保育園て、なんかませ過ぎてない?」
「きっと昔から女好きなんですよ(笑)」
「え?だったら私の事、早く口説かないと(笑)」
「しませんってば(笑)」
「フフフっ(笑)」
S子のお陰で中学の時に自殺を踏みとどまれたとか、もっと深い背景がある事までは流石に話さなかったけれど、S子の事が好きだったという話をしたのは、彼女が初めてだった。
そんな事、それまで誰かに話そうなんて絶対に思わなかったけれど、不思議と彼女には何の抵抗も無く話せてしまった。
まるで魔法使いのように、心の中に隠していた誰にも言えない秘密を、彼女はいとも簡単に引き出してしまう。
いや、逆に自分の方からどんどん話したくなるような、そんな感じだった。
「そもそも自分から女の子口説いたなんて事、一度も無いんですから」
「え?そうなの?」
「じゃあまだ自分から好きになった人と付き合った経験とかって無いんだね」
「うーん・・・正直無いですね。いつも女の子の方から付き合ってくれって言われて、付き合った事しかないです」
「男の人ってそんな感じの人が多いかもね」
「ナンパする人とかは別だけど(苦笑)」
「そこまで自分に自信がある訳じゃないんで、好きな子に自分から声掛けるとか、そんなの恥ずかしくって絶対無理ですって(苦笑)」
「自分から言わなきゃ、いつまで経っても好きな子とは付き合えないのに、待ってるだけでいいの?」
「いくらこっちが好きでも、向こうも好きと思ってくれてなきゃ、付き合ってもらえませんよね」
「振られたら、その後が気まずくなっちゃうじゃないですか」
「妥協して付き合ってくれる人もいると思うけどな。男の人だって女の子から告白されて仕方なく付き合ってくれる人多いでしょ」
「多いけど・・・その、そこまで好きじゃないけど仕方なく付き合ってあげる・・って事、気付いてたりするんですか?」
「当たり前じゃん、最初から相思相愛の関係になれるなんて、全然思ってないって(笑)」
「確かに、せっかく告白してくれたのに断ったら可哀想だからって、つい付き合ってしまう事はありますからね・・・」
「でしょ? 女の子は、ただ付き合うキッカケを作る為に告白するだけだからね・・・他の子に先を越されたくないってのもあるけど(笑)」
「そこまで真剣に告白してる訳じゃないって事ですかね?」
「真剣は真剣だけど、最初はカッコイイとか表面的な部分だけで好きになってるだけだから。付き合ってみて、思ってたのと違ってたら恋心が冷める事もそりゃあるよ」
「逆に思ってた通りだったり、それ以上だったりすると、そのまま恋にハマっちゃうけどね(笑)」
「男の人だって、最初は乗り気じゃなくても、付き合ってるうちに好きになってた・・・って事があるでしょ?」
「それは確かにありますね・・・M子の時がまさにそれだったし」
「フフフっ、女の子達はみんなそれを狙ってるんだよ(笑)」
「危うくそのまま結婚までしそうになりましたからね(苦笑)」
「女は男に合わせて、どんどん変わって行くからね。だから・・経験値高い人の方がより魅力的に見えるでしょ?」
「それは確かにあるかも。ただ、好きは好きだけど、そこまでM子のこと本気で好きになれてたかというと、やっぱりよく分からなくて・・」
「なんとなく情が移って好きになってたのもあるのかな?って思ってますけど」
「でも、それくらいの関係で結婚するのが一番いいと思うな。本気になりすぎた相手だと、きっと気疲れしちゃうからね」
「昔の事聞いて申し訳ないんですけど、KTさんは元婚約者の彼って、本気じゃなかったんですか?」
「そこまで本気とは言えなかったかもだけど、でもほら、恋愛と結婚って、別物だから・・・」
「そこはまだよく解りませんけど、じゃあ本気になると辛いってのは別の人の事を言ってたんですかね?」
「あ・・うん、高校の時に付き合ってた先輩なんだけどね・・・」
「私の中では今でも一番の人だよ」
「あの・・・聞いていいのか分かりませんけど、そんなに好きだった人と、どうして別れちゃったんですか?」
「んー・・・よくある話だよ。彼が先に東京の大学に行っちゃって、そのうち彼の方からもう終わりにしようって・・・」
「大学行って、別の彼女ができちゃったとか?」
「その時は遠距離で全然会えないし、束縛もされたくないなんて言ってたけど、大学卒業後にすぐ結婚しちゃったみたいだから、実はそうだったのかもね・・・」
「それもなかなかキツいですよね・・・」
「もういいんだよ。その時は物凄く泣いたけど、いい思い出を残してくれただけで十分かなって・・・」
「解ってたんだよね、私じゃダメなんだって・・・だから付き合ってる時もずっと辛かったんだと思う・・」
「それで納得して別れられるってのが凄いですよね」
「納得した訳じゃ無いんだけど、好きな人と結婚するだけが恋愛じゃ無いから・・」
「そう・・・ですかね」
「結婚は現実だけど、恋愛は夢の中の世界なんだよね」
「好きな人はずっと好きでいたい・・っていう気持ち・・・解る?」
「好きだったらずっと一緒にいたいとか思っちゃいますけど」
「結婚しちゃうと汚い部分とかも見えちゃうでしょ?・・・だから、夢は夢のまま残す方がいい時もあるんだよ」
「って、ちょっと、恥ずかしいからこんな事あんまり言わせないでよ(苦笑)」
「あ、いえ、なんだか深いですね・・・自分は多分そんな風に割り切れないし、考えた事もありませんけど・・・」
「フフっ、S君も誰かの事を本気で好きになれば解ると思うよ(笑)」
正直、その時の自分は、まだそこまで人を好きになるって事が、よく解っていなかったと思う。
ただ・・・男子と女子では、恋愛や結婚に対する考え方が全然違うんだって事は、彼女とよく話すようになって初めて理解出来た気がした。
そういうのを聞いてから過去の恋愛の事を思い返すと、自分には色々と足りてなかった事を思い知らされたり、恋愛面でも彼女から学ぶ事はとにかく多かった。
ただ、そんな存在ではあったけれど、会話を重ねていくうちに、どんどん彼女を好きになっていく自分を感じていた。
でも、出来るだけそれを表に出さないように気を付けてはいたけれど・・・・
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