Chapter 6

そしてそれからは、遅くまでの残業とか、何か他の用事でも無い限り、

ほぼ毎週末に二人で会ってどこかで食事をしながら話す日々が続いた。


また、週末以外の別の曜日とかでも、誘われれば、その都度会っていた。

その頃は、友達と遊ぶ事も全くと言っていいほど無く、ずっと彼女とばかり会っていたように思う。


そんなに彼女と会話するネタなんてないんじゃないかって思ってたけど、いつも彼女が上手くネタや話題を振ってくれて、どんどん話を拡げてげてくれるので、逆にいつまでも止まらないくらい・・・

あー話し上手な人ってのはこういう人の事を言うんだなと、いい勉強になった。


最初のうちは、自分がそこまで話し上手じゃないのを悟ってか、必ず彼女から話を振って来る・・・というよりあれこれ質問される所から始まる事が多かったと思う。


自分の腹の中を他人に探られるのはあんまり好きじゃなかったけど、

でも彼女には何故か何の抵抗も無く話す事が出来た。



「S君てさ、写真家とかになりたくてアシスタントとか始めたの?」


「いえ、写真撮るのは好きですけど、これで食べて行くのは大変だって解ってるんで、そこまでは・・・」


「ふーん、じゃあ、どうして?」


「プロの技術ってどんなんだろうってのを知りたかっただけですね・・・それに、やりたい事は出来る内に全部やっておこうって思って。」


「へー、じゃあずっと写真がやりたかったんだね~」


「あ、写真がやりたくなったのは、最近の事で、その前はグラフィックデザイナーとか、イラストレーターとか、色々とやったり・・・」


「え?高校卒業してまだ3年くらいなのに、そんなに色々やってんの?」


「あ、いや、実はそれ以外にも・・・・(汗)」


「あんまり長続きしないタイプ?」


「いえ、そんなことは無いですけど、この仕事続けたら、10年後の自分はどうなってるかって考えたら、あ、この仕事じゃダメだなって・・・」


「フーン、そんな風に考えてるんだ」


「私なんてずっと結婚する事しか頭に無かったから、仕事なんてただの結婚資金稼ぎくらいにしか思ってなくて、こんな仕事やりたいとかの夢も希望もなんにも無かったけどね・・・」


「女の人って、どうしてそんなに早く結婚したいんですかね? 若いうちにしか好きな事なんて出来ないのに」


「うーん、友達の中には専門学校行って東京でファッションデザイナーとかやってる子もいるけど、そういう才能もやりたい事も何も無い私みたいな人達は、早く結婚した者勝ちって感じだからね~」


「25過ぎたら、もう残りもんとか、行き遅れなんて言われるし、給料は全部結婚資金として貯金しなさいって言われるし、海外旅行行きたいとか、スキー行きたいなんて、いつまでも遊んでられないからね」


女子は結婚したら専業主婦か、せいぜい短時間パートや内職する程度で生活が成り立った時代の、それが一般的な考え方だった。


「なんとなく、解らなくもないですけど、そんな早くに家庭に入っちゃって楽しいのかなって?」


「うーん、でも結婚したら、子供産んで、育てて、家事もやってって、どんどん忙しくなっちゃって、何が楽しいとかそんな事考えてるヒマなんて無くなっちゃうんじゃないかな。」


「でも結婚する前までは、そんな先の事全然考えてなくて、ただ良い男見つけて周りの誰よりも早く結婚しないと! なんてくらいしか考えてなかったけどね(笑)」


「23で結婚が決まって、仲間内で一番乗り!・・なんて思ってたけど、今考えると、そんなに早く結婚を決めてバカみたいだったかなって・・・」


「だから結婚とか、恋愛ももうコリゴリだから、今はあんまり考えたくないかな・・・」


「あ、それは自分も一緒です(苦笑)」


「だよね!だから話し相手に丁度いいかなって(笑)」


「男の人と話すと、すぐ付き合ってーなんてなっちゃって、もう凄いもん。こっちは全然そんな気無いのにさー」


大抵の男がそうなるのはよく分かる・・・

彼女はそれくらい美人で魅力のある女性なのだ。


「あの・・自分もそのいう人の方が、女性だからって変に意識しなくていいので助かります」


「ねっ、なんかこういう関係の方が、何でも話せていいじゃんねっ(笑)」


と、最初の内はお互いに恋愛感情とかはほとんど無く、恋愛も結婚も当分する気は無いと、そんな感じだった。


彼女はとても美人で、好みのタイプではあったけれど、どちらかというと年上のお姉さんって感じが強くて、憧れてはいても、恋愛対象として考えられなかったし、それは彼女もきっと同じに思っていたと思う。


ただ、そう言いつつも、お互いに寄り添える相手が欲しいと思っていたのは多分間違いなくて、こうやって週末に会って話す事で、二人共その欲求を満たしていたのかも知れない。

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