第28話

 志摩吐しまとが刀を握って、馬子うまこめがけて走り出す。そして彼は馬子の前にいた椋毘登くらひとの従者も難なく払いのけていった。


蘇我馬子そがのうまこー!覚悟しろーー!!」


 馬子は今まさに殺されようとしているのに、何故か余裕の表情を見せていた。


 その時馬子の前にさっと椋毘登が現れた。そして彼が刀を振る前に、椋毘登は彼の腹を思いっきり斬りつけた。


 そして「ギャー!!!」と彼は絶叫の声を出して、その場に崩れ落ちた。


(な、何だと。このガキ、いつの間に!)


「く、くそ。お前、先程から、ちょろちょろと……一体何者だ!」


 志摩吐は痛みに耐えながら、顔だけ上げて椋毘登を見る。


「こいつは私の甥であると同時に、護衛もかねている。何分お前達同様に、私は命を狙われやすいんでな」


 蘇我馬子はそういってから、ニヤリと笑った。彼はどうやら、椋毘登に絶対的な信頼を置いているのだろう。


 そんな光景を見ていて、古麻こまが思わずハッとした。


「そういえば、馬子様は自身の身を守る為に、最近護衛をつけたって噂があったわね……」


 それを聞いて稚沙も驚く。

 つまりその護衛というのが、蘇我椋毘登のことだったのだ。


 そしてそんな中、椋毘登は志摩吐に止めをさす。

 それは本当にあっという間のことだった。


 それから古麻は、伊久呂いくろの息がまだ少しあることに気が付き、彼に近付いた。


「伊久呂、あなたもう助からないのね」


 伊久呂の方も悟っているようで、どうやら彼は諦めは付いているみたいだ。


「あぁ、お前には迷惑かけたな。だが割りと良い女だったから、復讐が終われば、お前のこと少し考えたかもしれないな……」


 そういって伊久呂は息を引き取った。


「伊久呂、何で最後にそんなこというのよ!」


 そういってから、古麻は彼を抱いてわんわんと泣き出した。


 そんな彼女らの光景を見ている周の者達は、何も話そうとせず、静かに見続けていた。


 その後しばらくしてから宮の人達を呼んだ。

 とりあえず今夜は死体だけ部屋から移動させることにし、部屋の片付けは翌日することになった。

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