第31話
「一つ、訊いてもいいですか?」
私のその問いに彼女は何も言わなかったので、質問を続けることにした。
「もうすぐ自分が死ぬとして、成美さんは死ぬまでにしておきたいことってありますか?」
そう訊かれた彼女は顔色ひとつ変えず、本に落とした視線すらも微動だにしなかった。
まるでそう訊かれるとわかっていたかのように。
数秒の沈黙が続き、いよいよ答える気がないのかと諦めかけた時、
「何もしない、かな」と成美は言った。
「何も?死ぬのに思い出なんかいらないってことですか?」
私がそう聞き返すと、成美はそうじゃないよ、と答えた。
「死んだらさ、間違えたこと、やり直したいことがあっても二度と撤回もできないでしょ。だから死ぬ前に私が何か行動することによって、誰かに誤解を与えたり、それで苦しめたり、そういうの、面倒くさいのよ。それだけ」
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