第29話

パズルはあれから少し進んで、半分くらいは出来上がっている。


ただ私がこのパズルの完成を見ることはないだろう。


今日でここに登校するのも最後なのだから。



「成美さん、夏休みはどこか行くんですか?」



いつものようにピースを探しながら、話しかける。



「別に。行く相手もいないし」


「家族旅行とか、そういうのもないんですか?」



ないわよ、と彼女は首を横に振った。



「うちの親なんていないのと同じだから。家族旅行なんて吐き気がする」



意外、というわけではなかったけれど、初めて聞いた彼女の家庭環境に少しだけ同じに匂いを感じて私は少しだけ踏み込んで尋ねた。



「あまり仲良くないんですか?」


「仲良いも何も、父親とは血繋がってないし、母親はただのビッチ」



正直、私の家庭もそれほど円満なわけではない。



両親共に血縁もあり、母親はビッチでもないが共働きで忙しく、一人娘に私に大してよく言えば放任主義、悪く言えばほとんど関心がなく、当然家族旅行なんてした記憶もない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る