第18話

第9話:例外


カランカランと鈴の音を響かせて、ドアが開く

入って来たのは…少年だった。

銀髪の髪に、青い目。顔立ちの良い少年だ。

黄泉達は驚いた。

別に若人が此処に来た事が珍しい訳ではない。

それは、少年が半透明だった事と、それになる原因である。

「これはこれは珍しい客だな。ーー面白ぇ」

と陽。

「うっ嘘でしょ!?」

と月。

「あら…本当に珍しいお客様ね」

と黄泉。

反応は各々だったが、驚きは変わりない。

しかし、その反応を他所に少年は驚きもせず、淡々とした口調で話す。

「此処が…その、”カフェ”ですか?」

「「「……!!!」」」

3人は又々びっくりした。

(カフェの事も知っていたのか…)

陽と月が驚いている中、黄泉は口に手を当てて、考えるポーズをする。

そして、数秒後。

「成程、久しぶりね…何百年ぶりかしら?」

黄泉が笑う。

謎が解けた時の笑み。

「えっ…何百年ぶりって、もしかして…」

今度は月と陽も、確信したようだ。

ーー彼の正体について。

黄泉が尋ねる。

「貴方は…とても強い霊感を持っているのね」

少年はこくりと頷く。

「だからなのね。たまに霊感がある人が来るのだけれど…稀なケースもあるの。」

黄泉は、少年の手を確認するように触りながら話す。

(それを月が羨ましそうに見ていたのは云うまでもない。ただし、顔には出さず)

「彼の、強すぎる霊感とか…本当に久しぶり。”あの人”以来だわ。」

そう言った黄泉の目が一瞬、遠くを見た。

懐かしんでいるようで、哀しみが奥底にあるような…

そんな表情をしていた。

しかし、それは本当に一瞬の事で、もういつもの穏やかな表情に戻っていた。

(…過去に…似たような事があって、嫌な事でもあったのかな…)

月は、そんな彼女の表情を忘れるために話題を振る。

「君の名前を教えてくれないかな?大体の事情は分かったからさ」

月は慣れた手つきでお茶の準備をしている。

今はどんな紅茶にしようか、迷っているところだ。

彼は頷くと、口を開いた。

「…青山リヒト。その人の言う通り、俺は霊感が強いと思います。そして、ここのお店に来たのは、俺に別の用件があるから…です。」

それと、と話を続ける。

「あの、…あ、黄泉さん、”あの人”ってばあちゃんのことですか?」

ばあちゃんに教えられて知ったんです、とリヒトは付け加えた。

黄泉はそれに困った顔を向ける。

「半分正解、半分不正解、ね。確かに…貴方のおばあさんも此処へ生きたまま来たけれど」

私の思い浮かべた人は別の人なの、と笑った。

「へーそんな事が…って、えぇ!?」

月はとても驚いた。

驚きのあまり、ティーポットから少し紅茶が零れる。

陽が無言で月の顔面にタオルを投げつける。

月はわぷっと良いながら、見事”顔面”で受け取り、机を拭く。

「クソみたいなオーバーリアクションだな。リアクションの手本かよ」

と毒づく陽も驚いている。

それもそのはず、彼、リヒトは死んでいないのだから。

反応からして、陽と月はこの事は知らなかったようだ。

(…僕達と出会う前の話、か…何時か話してくれると良いな…)

硬くギュッと手に力を入れた。

「よっ黄泉さん!死んでないってどう言う事ですか?そもそも死なないと此処には…」

月が両手を広げ、分からないと言うポーズをする。

月達が知っているのは、霊感が強すぎると稀に此処に来てしまう、と言うこと。

だが、それはあくまで『生前の』ケース。

死んでないのに霊感が強すぎて来た、と言うケースは、知らなかったのである。

陽は黄泉が答えるのをジッと待っている。

「このケースは稀だから、月も知らなくて当たり前ね。彼は…そうね、幽体離脱の様な感じかしら」

「ゆっ幽体離脱…」

そんな事…あるわけない、とでも言うように月は口を開けて固まっている。

陽はそんなもんか、と謎が解けて面白く無くなったのか、あやとりを始めている。

「幽体離脱は分かりやすく言ったらの話よ。霊感が強いとね、事故か何かの衝撃で一瞬の間冥界に来たら、死んでなくても此処に来てしまうの。」

だから、と黄泉は笑って話を続ける。

「私達はそうやって此処に来てしまった人達を送り返す役目もあるのよ」

と黄泉は静かに答えた。

「さて、私が説明できるのはここまで。後は…紅茶でも飲みながら話を聞きましょうか」

そう言って、黄泉は月から紅茶を貰い、1口飲む。

それぞれ席に座り、一段落ついたところで、黄泉が話を切り出す。

「貴方が言う”用件”、何かしら?」

その一言で、全員が手を止め、リヒトの方を見る。

リヒトはカップをソーサーに置いて…一息ついたところで、言った。

「俺の用件はーー此処で働かせて欲しい、と言う事です」

全員が予想していない用件だった。

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