第16話

第8.5話:買い物 番外編


「来たぜ〜!!闇デパート!」

陽が大きな声ではしゃいでいる。

今にもはぐれそうなのだが、大丈夫だろうか。

そう、此処は冥界(つまりあの世)1大きいお店、闇デパートである。

黄泉達のいる黄泉路からは少し遠いが、同じ冥界にあるので、たまに本当に極たまに来ている。

黄泉達は冥界にあるカフェで、年中無休で働いている。

前世で、未練があったりとても強い霊感があったり、死んですぐだったり…とまぁ、良く分かっていない人達が黄泉路に迷わないように、サポートするのが、黄泉達の仕事だ。

死んだ人が少ないと、人1人でも回せるが、忙しい時もある。

今日はその"時"ではなく、忙しくない時だったので、今こうしてデパートに来ている。

「陽めっちゃはしゃいでるね…。こう言うところ、陽好きだったっけ?」

月は落ち着いている。

陽の監視役、保護者だ。

陽は基本、買い物が好きでは無い。

私服もいつもの黒のパーカーが多く、適当である。

だから、今日テンションが高いのが少し不思議だった。

「え?だって今日黄泉の金で買うじゃん?人の金で買い物って最高!」

口悪の最低野郎だった。

…悪魔なのと、元々の性格なので許してやって欲しい、と思いながらしっかり叱っておく。

「おい!そんな失礼なことを言うな!」

少し、強めの口調で言う。

途端、陽にギロッと睨まれ、ヒイッと月は後ずさる。

月は泣き虫である。

睨まれただけで、もう涙が出ている。

しかし、

「…黄泉さんのお金を使えるなんて幸せじゃないか。」

声は小さくなっているが、反抗している。

後、コイツは少し(?)ズレている。

この考えが他の人とズレていることを本人は知らない。

「お前本当に変態だな。まぁ取り敢えず何を買うんだ?早く言え。」

陽が命令する。

「えーとまず闇苺と地獄唐辛子、あの世クリーム…」

話は振り出しに戻るが、今日はお使いだ。

黄泉はカフェから席を外せないので、こうして月と陽がデパートで買い物している。

月はメモを見る。買い物リストだ。

黄泉が、お客様にだす料理の材料や、自分達のご飯のための分を今日は買いに来ている。

月達は早速、1回の食品フロアで買い物を始めた。

月は商品カゴにメモ通りの物を入れていく。

次は…と顔を上げた時、陽がいないことに気づいた。

「えっ…」

首を左右に降って探すと、

「いた…」

お菓子コーナーに。

「おいっおまっ陽!何処行ってるんだよ!」

陽の肩に手を掴み、引き止める。

「別に何処に行ってもいーだろうが。それよりこれとこれとこれ、買え。」

ポンポンッと月が持っているカゴに次々と入れていく。

「はぁ!?ちょっと待ってよ!陽!そんなに買えないって!お金だって無限にある訳じゃ…」

月はびっくりして静止に入る。

ところが、陽が対抗する。

「はぁ?お前有るだろ?給料。こっちだってタダ働きしてねーし。」

ヒラヒラっと黒い長財布を見せる。

「有るんなら自分で買ってよ…」

もう、怒るどころか、呆れてしまう。

「言ったろ?俺は人の金で買うのが好きって。」

「最低な趣味だな。」

「趣味じゃねぇ、道楽だ。ど・う・ら・く」

少し腹の立つ言い方だ。

「それを趣味って言うんだよ…」

やっぱり馬鹿だよコイツ…。

月はハッとする。

陽に構っていては、買い物が永遠に終わらない。

月は残りの買い物を済ませに、足を急がせた。

「ただいま戻りましたー!」

挨拶をし、黄泉のいるキッチンの台に買い物袋を乗せる。

「お帰りなさい。月、陽」

優しい声で黄泉が出迎える。

「遠かったでしょ?お疲れ様、ありがとう」

黄泉さんの労いの言葉はどんな疲れも吹っ飛ぶなぁ、と月は思う。

彼は黄泉さんのことが好きだった。

一途に。

だって黄泉さんは…"あの子"に似ているから。

小さい頃の記憶が殆どない月にとって、唯一の思い出。大切な。

だが、それでも朧気で殆ど覚えていないに等しい。

(…また、あの子に会えたらいいな…)

ーーー月はまだ知らない。

これからもう少し先で、あの子に…出会う事を。

「うおっ!何すんだよ、黄泉!すまねぇって謝ったじゃねーか!」

陽の大きな声が聞こえた。

その声でハッと我に返る。

既に黄泉さんはキッチンから離れており、陽を叱っているようだ。

「駄目でしょう?そんなに買ったら。買っていいとも言ってないわ。今回は必要な物も買ってあるから良いけど…」

黄泉さんが優しく叱っている。

次からは余計な物を買わないでね、と陽は釘を刺されていた。

やっぱり黄泉さんは優しい。

陽も懲りただろうと思っていると

「へいへい。(結局全部買ってるんだから良いだろ…)」

あ、全然懲りてなかった。

小声でまだ文句を言っている。

チラリと隣にいる黄泉さんを見る。

「…陽?貴方…まだ懲りてないようね。叱責が足りないのかしら?」

僕は口の前に手を添えて、ちょっと青くなったであろう顔で、一部始終を見届けた。

顔面蒼白でカフェ中を逃げ惑う陽とそれを追う黄泉さんを。

「たまには騒がしいのもいいな…」

3人しかいない騒がしい空間に、月は微笑んだ。

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