第15話

第8話:もうすぐバレンタイン 後編


ばくばくばくばくばくばくばく。

心臓がこれまでにない程、音を立てていた。

ーー相手に聞こえるんじゃないかと思うくらい。

今、目の前にいる相手の持っている物を受け取る。

鼓動が大きくなる。

どうしてこうなったんだろう。

月は今までの事を思い返した。


***


桐生 隆二の件(や、その他諸々)の後、月は黄泉に呼び止められた。

「月、ちょっと良いかしら?」

黄泉さんの用事など、何時でも良いに決まっている。

「もち…(ろん)良いですよ」

と、月は返事をする。

「これ、受け取って欲しいのだけど…」

と手渡されたのは丁寧にラッピングされたチョコだった。

それも沢山。

1口サイズのチョコ、それが5、6個入っており、一つ一つ淡い菫色のリボンで止めてある。

ドクンと心臓が波打つ。

それで、今に至る。

…これは…まさか。

ーー期待して良いのだろうか。

黄泉さんが桜色の唇を開く。

その仕草でさえ、今はドキドキする。

「……これを、渡して欲しいの。」

「冥界の皆さんに」

思考が停止する。

「…へ?」

火照った顔がみるみる青ざめていく。

「…?どうしたの?」

と黄泉さんが尋ねている。

「あ、あぁ。何でもない、ですよ」

片言ながらなんとか話す。

顔がまともに見れない。

……そう、だった。

黄泉さんてこう言うの鈍感な人だった。

ーー人のは分かる癖に、自分の事になると気づかない。

ずるい。ーー僕は気づいて欲しいのに。

でも、焦っては行けない。

焦っても良いことはないし、何よりーー怖い。

もし、最悪の答えが返ってきたらと思うと。

「……分かりました。」

複雑な気持ちを抱えて返事をした。

さぁさっさと渡して忘れよう。

クルリと後ろを向いた時、手を掴まれた。

「待って…月。まだ、終わってないわ」

黄泉さんに呼び止められる。

ーー黄泉さん、これ以上僕を……

ーー傷つけないでーー。

「はい、これ。月に。……何時もありがとう」

ふわりと黄泉は笑って月にチョコを手渡す。

ーー少し、照れ臭そうに。

「………………………………へ。」

無意識にチョコを受け取った手は、微かに震えている。

またもや、思考停止。

一気に体温が戻っていく気がした。

「ごめんなさい。先に渡しておけば良かったかしら」

黄泉さんが、バツが悪そうに笑う。

そんな、事、じゃない。

けれど、なんだか可笑しくて思わず笑ってしまった。

黄泉さんは意味が分からなそうに、首を傾げている。

ーーーまだ、大丈夫。

何時か、きっと何時か振り向かせてみせる。

その時まで。

「(待っていてください。)」

ポツリ。

誰にも聞こえない声で月は話した。

「………月?どうしたの?」

目の前にいる黄泉が不思議そうにしている。

月は笑顔で返した。

「…何でもないです!今日は何食べますか?」

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