第33話

私はあの頃のように、頷いてみせる。


「よかった!じゃあ・・・えりぃ!よろしくどうぞ!」



彼は無邪気に手を差し出してきて、私は高鳴る鼓動を押さえながらその手を握った。



“えりぃ”と呼ばれたのは何年ぶりだろうか。


付き合っていた頃彼が私の事をそう呼んでいた事を思い出し、懐かしい気持ちになる。



「えりぃは家近いの?」


「ここから30分くらいです」


「へえ、じゃあ近いや。俺もすぐそこなんだ」



彼のパーマがかかったような癖っけの髪、スラリと伸びた手足、太く形のいい眉毛、少しつり上がった切れ長の目、ほんの少し上向きの鼻、じんわりと赤く染まった唇、それらが言葉を交わすたび表情を変え、私はいつまでも飽きる事なく見ていられるような気がした。



そして同時に、将暉に振られた事を思い出すとどうしようもない胸の痛みが蘇ってくるようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る