第32話

「あ、いや・・・ちょっと勘違いして」



まずい、と慌てて曖昧な回答をする私に、彼は特に追求する事もなく眉を寄せて苦笑するだけだった。



「そっか。…でも俺とタメで、母さんと同じ名前の人と”今日”知り合うって、…これもなんかの縁なのかな」



その時、ふいに彼の表情が曇ったような気がした。


実際の過去でも彼はこんな表情を浮かべていたのだろうか。


今となってはあの日の彼の表情までを鮮明に思い出す事は出来なかった。



しかしそれはほんの一瞬だけで、それから彼は少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら



「突然であれなんだけど、…よかったら俺と友達になってくれないですか?」



と私に言ったのだった。




……そうだった。


この日彼はそう言って、この日限りになるはずだった2人の縁を未来へと繋いでくれたのだ。

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