第3話

私はそのまま何も言わずに彼の家を後にした。


来た道を戻り、タクシー乗り場でタクシーを捕まえて乗り込んだ。



巻き戻されていく窓の外の景色に目をやりながら、私は一紀と過ごしたこの数年間の事を考えていた。




情けなかった。


情けなくて悔しくて仕方が無かった。



情けないのも、間抜けなのも、彼ではなく私の方だ。




今までだって怪しいことや、浮気まがいな事は多々あった。



けれどその度許してきたのは、毎回別れたくないとせまってくる彼のためなんかではなく、私が単純に一人になる事を恐れていたからだ。




本当は全て無意識のうちの自己防衛であって、許してあげたなんていうのはただのまやかしで、ただ一人になるのが怖かっただけだった。




なんて情けないのだろう。



23歳にもなって一人で生きていく覚悟すら持てていなかったなんて。

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