第11話 竜騎兵の地にて

馬車の揺れが次第に落ち着きを見せ、外の景色が広がった。


王都からカトリーナの領地へ向かう道は長かったが、周囲には雄大な自然が広がり、いよいよ到着が近いことを告げている。


主人公は疲れを感じつつも、新たな出会いへの緊張を隠しきれなかった。


カトリーナ・ルーファス――彼女は、名高い竜騎兵(ドラグーン)として知られ、ヴァルムドラゴンを操る強靭な女性だ。


彼女の領地では、軍事的な要素が生活の一部となっており、特に戦闘用の竜の管理と育成が中心的な役割を果たしている。


主人公はこれまでの女性たちとは異なる、戦いに生きる彼女との出会いにどこか不安を抱いていた。


やがて、カトリーナの館が視界に入った。


重厚な石造りの建物が立ち並び、その背後には広大な竜舎が広がっている。


主人公は馬車を降り、出迎えの家臣たちに導かれ館の中へ入った。


「ようこそ、我が領地へ」


館の大広間に案内されると、そこにはカトリーナとその両親が待っていた。


カトリーナは背が高く、鋭い目つきを持ちながらも、その姿には気高さと美しさがあった。


彼女の両親も同じく厳格な印象で、長年の戦争や統治に携わってきた風格を漂わせていた。


簡単な挨拶と自己紹介を済ませ、主人公は昼食へと招かれた。


昼食の席では、カトリーナの両親が領地の現状や軍事について話す一方、カトリーナは終始静かに主人公を観察している様子だった。


食事が終わると、カトリーナが立ち上がり、少し微笑んで主人公に言った。


「せっかくだから、我が領地の誇りを見せたい。竜たちを」


主人公は頷き、カトリーナに従って外へと向かった。


竜舎は圧倒的な規模を誇り、数十頭ものヴァルムドラゴンが飼育されていた。


彼らは巨大で、鋭い爪と硬い鱗に覆われている。


その中でも一際大きなドラゴンがカトリーナのパートナーであることを知り、主人公は驚きの表情を隠せなかった。


「これが、私の相棒、アグニだ」


カトリーナは誇らしげにそのドラゴンを紹介し、首筋を優しく撫でた。


「見ての通り、ヴァルムドラゴンは戦場において最強の戦士だ。速さ、力、そして知性を兼ね備えている」


彼女の声には、自分の竜に対する信頼と愛情が滲んでいた。


主人公もその威厳と美しさに魅了され、しばらくの間言葉を失った。


その後、カトリーナの案内で竜たちを実際に間近で見学し、飼育方法や訓練の説明を受けた。


特に印象的だったのは、カトリーナが自らドラゴンに騎乗し、見事な操縦を見せたことだった。


竜と人が一体となるその光景は、まさに圧巻であり、主人公はその気高さに思わず息を呑んだ。


「どうだ、ドラゴンは美しいだろう?」


カトリーナが振り返り、軽く微笑む。


「……はい、本当に見惚れてしまいました」


初対面の時間は、カトリーナの優れた騎兵としての姿勢を強く印象づけるものとなった。


——


その夜、主人公は自室に戻り、ベッドに腰を下ろした。


カトリーナとの初対面は上手くいったものの、心の奥底にはまだアリシアへの思いが引きずられていた。


彼女と過ごした時間、共に笑い、涙を流し、未来を夢見た瞬間が、まるで昨日のことのように思い出される。


「でも……」


主人公は自分に言い聞かせるように呟いた。


カトリーナもまた、自分に真摯に向き合おうとしている。


彼女の領地やドラゴンへの深い愛情、そしてその誇りを感じた主人公は、アリシアへの未練をこのまま引きずることが、目の前のカトリーナに対して失礼であると気付いた。


「今は、彼女に集中しよう」


心の中でそう決意し、主人公は重い瞼を閉じた。


次の挑戦に向け、しっかりと休まなければならない。


しかし、その夜もアリシアの面影が消えることはなく、彼は彼女の笑顔を思い出しながら、眠りについた。

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サラリーマン召喚〜異世界で始める種馬生活〜 佐々木涼介 @sasaki_ryosuke

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