サラリーマン召喚〜異世界で始める種馬生活〜

第8話 酒場に響く歓声

アリシアの領地に広がる酒場は、いつにも増して活気に満ちていた。

普段は黙々と仕事に励む肉体労働者たちが、今日ばかりはビールを片手に大声で笑い合っている。

アリシア様のご懐妊――その知らせが領地全土に伝わり、特別な日として認識されていたからだ。

領地に住む男たちは、アリシア様の妊娠を祝うために集まっていた。

彼らにとって、この日はただの祝賀ではない。

長きに渡り領地を守り、領民のために尽力してきたアリシア様がようやく母となるという喜ばしい瞬間を共有できる特別な日だった。

酒場では、ビールが惜しみなく注がれ、杯は次々と空になっていく。

「おい、みんな！ 今日はタダでビールが飲めるぞ！」

酒場の店主が叫ぶと、男たちは一斉に歓声を上げた。

「アリシア様に乾杯だ！」

ある労働者が声を張り上げると、店中の人々がそれに応じ、勢いよく杯を掲げた。

「乾杯！」

——

この領地で肉体労働に従事する男たちは、アリシアへの尊敬と感謝を深く抱いていた。

彼女は貴族でありながら、常に領民のことを第一に考え、どんな時も共に働き、困難を分かち合ってきた。

農作業を手伝い、狩猟に出かける姿は、まるで一人の強い戦士のようだった。

男たちは、そんな彼女を誇りに思うと同時に、彼女がずっと孤独であることを心のどこかで憂いていた。

「アリシア様が、これまで結婚もせずに子を持たなかったのは、領地のことを何より優先してきたからだ」

と、古株の労働者が言った。

「それにしても、ずっと一人で背負い込んでいたとはな……。本当に強いお人だ」

周囲の男たちは頷きながら、その言葉に耳を傾けていた。

アリシアが今までどれほどの重圧を背負ってきたか、彼らはよく知っている。

領地を守り、領民の生活を安定させるために、彼女は自らの幸せを後回しにしてきた。

しかし、今回のご懐妊の知らせは、領民たちにとってまさに希望の光だった。

アリシアが母となることで、領地の未来はさらに明るくなる。

そんな期待感が、酒場の男たちをさらに盛り上げていた。

「アリシア様がついに母になるなんて、本当に喜ばしいことだ！」

別の男が声を張り上げた。

「これでこの領地も、もっと繁栄していくだろうな」

「その通りだ！」

みんなが口々に賛同し、次々と杯を交わした。

——

ビールがどんどん注がれ、酒場の中は熱気と笑い声で満ちていた。

いつもは疲れ切った顔をしている労働者たちも、今日は顔を赤らめながら笑い合っている。

彼らにとって、この瞬間は長い労働の日々を忘れ、未来を祝う貴重なひとときだった。

「なあ、みんな」

と一人の男が静かに語り始めた。

「アリシア様が、この領地を守り続けたことは俺たちもよく知ってる。だが、これからは俺たちも、この領地の未来を支えていかないとな。アリシア様が子を産むことで、新たな時代が始まるんだ」

その言葉に、酒場の男たちは一瞬静かになり、やがて真剣な顔つきで頷いた。

彼らもまた、アリシア様が未来に繋ぐ大切なものを守る一員だという意識が、今まで以上に強まっていった。

——

やがて、夜が深まるが、酒場の熱狂は収まることを知らない。

男たちは笑い、語り合い、ビールを飲み続けた。

彼らにとって、この夜は永遠に続いて欲しいほどの特別なものだった。

「アリシア様に祝福を！」

最後に一人の男が叫び、全員が再び杯を掲げた。

その歓声は、夜空に高く響き渡り、領地全土に祝福の波を広げた。