第3話
【一】バーバラ―黒髪の宮廷魔法使い、バーバラ②
コンコンコン。ガチャリ。
「祖母ちゃん、気分はいかが?」
「ああ、バーバラ。なんだか眠いねえ。今日は城へ行かないのかい?」
「うん。お休みの日だよ。ねえ、あの話をしてよ」
私の大好きな、オバナー家にまつわる物語だ。
「おやおや。あんたは本当に、おとぎ話が好きだねえ」
「だって、おとぎ話じゃないでしょ」
「そうね。でもこの話は、あたしら一族と伯爵だけが知ってればいいのさ」
「うん。ねえ、聞かせて」
「一言一句、しっかりと覚えるんだよ。バーバラは子供たちに伝える役なんだから」
「まだ私は結婚してないよ?」
「そうさね、じきにあらわれるさ」
「どんな人? ねえ教えて」
「じゃあ、ひとつだけ。赤毛の騎士が見えるねえ。おや、名前にKがつくね」
「赤毛の騎士! 騎士って、筋肉もりもりの野蛮な人種じゃん。鎧を着て、汗だくで、剣を振り回す大男と結婚したら、チビガリの私は押しつぶされちゃうよ。ダメダメ、断固お断り!」
「魔法でガードすればいいでしょうに」
「私の魔法特性は防御じゃなくて鑑定だよ。ウソをつかれた時しか使えないでしょ」
「そうだったねえ。ふふふふ」
「あははは」
お祖母ちゃんの髪の毛がすっかり白くなってしまったのは、何年前だったかな。
私が次期オバナー家当主に決まった頃?
「むかし、むかし。あるところに魔法使いの女の子がいました。名前はローザといい、一族の中でも高い魔法能力を持って生まれました……」
お祖母ちゃんの紡ぐお話は私の心を揺さぶり、いつも涙が溢れてしまう……。
金髪の麗しい王子様と、若くて優秀な黒髪の宮廷魔法使い。
身分の差を乗り越えた、奇跡の愛――。
それが恐ろしい策略によって、引き裂かれてしまう。
物語が幕を閉じた辺りで父さんがやって来た。長い黒髪を後ろで束ね、城へ参上する服装をしている。
「ヤマガータ王が、私とバーバラを呼んでいる」
早馬が持参した国王の書状が父親の手に握られていた。
「緊急事態かい?」
祖母の問いに、息子である父親がうなずく。
「バーバラの鑑定魔法と私の結界魔法が必要らしい」
「お祖母ちゃん、行ってきます!」
椅子から立ち上がり、父さんの背中を追った。
※ ※
私の住むオバナーザワ伯爵領からヤマガータ城へは馬で四半時もかからない。
王様の契約獣のドラゴンだったら秒で到着しちゃうけど、あれって、王様に龍族の血が混じってるから乗れるんですよね。
謁見の間に駆けつけると、玉座から凜とした声が降ってきた。
「おお、待ちかねたぞ」
そしてヤマガータ国王はめっちゃイケオジだ。金髪碧眼は見事な黄金比だし、威厳効果が増し増しのヒゲもとってもダンディー。国民はこぞって彼に心酔している。
「ごきげんよう、ヤマガータ国王、王妃さま」
「ごきげんよう」
父さんと並んで腰を折り、挨拶した。
「ドミニク、バーバラ、休みの所をありがとう。私が動揺してしまって、王様があなた方を呼んでくれたのよ」
「愛する王妃の憂いは一刻も早く取り除かないとな」
「まあ、王様ったら……」
十段上で見つめあう二人。私たち魔法使いが取り除ける憂いって何?
悪霊に結界でも張って欲しいのかな。一分くらい経って、やっと王様が用件を切り出した。
「実はセンダーリア王国から書状が届いた」
玉座の下で控えていた宰相が王妃の憂いであるそれを受け取り、父さんに手渡した。
「バーバラも一緒に見てちょうだい」
「はい」
王妃の許可が出たので、父さんの横から覗いた。
「ええ~」
書状の内容に呆れた。文面は堅苦しいけれど、訳すとこうだ。
【親愛なるヤマガータ国王へ
元気? わしも元気だぞ。
ヤマガータ国王にいい話がある。わしの息子、つまり次期国王のアルート王子と、ヤマガータ国王の娘を結婚させよう。もちろん、正妃として迎えるぞ。
親友のセンダーリア王国より】
「我が国へ移住してきた民いわく、センダーリア王国は一夫多妻制で、しかも女性からは離婚申請ができない国だとか。男尊女卑もひどくて貴族も傍若無人で、平民の娘を無理矢理手込めにするそうね。そのような野蛮な国に嫁ぐのは絶対にいやだと姫は泣いています。私も受け入れられません」
王妃は涙声で訴えた。が、隣国の申し出を無下にはできない。断り方を間違えば、戦争に発展しかねないからだ。
「文字も王印も過去の書状と照らし合わせましたが、一致しております」
宰相の部下が筒状の書状を載せた盆を運んできた。
「バーバラよ、【鑑定】してみせよ」
「かしこまりました」
次の更新予定
赤毛の騎士は黒髪の宮廷魔法使いを離さない 桐乃乱 @kirinoran-ryujin
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