第14話

だけど、わたしにも気になることがあった。

彼の問題が解決したならば、今度はわたしの番だ。


「架くんのお世話係を引き受けたからには、きちんと遂行しなきゃ。わたしは一向にかまわないよ。案外楽しくなってきたし。だけど勿論、架くんの意見を優先する。架くんが嫌なら、あんまり関わらないけど」


やっぱり、わたしは迷惑なんじゃないだろうか。

架くんにとって、邪魔じゃないだろうか。


この仕事は柴田先生に押し付けられたことだけど、それをやって嫌われるのはわたしだ。

毎日放課後になるたび会いに来て、無駄話をしていく。

更には「勉強をしろ」と言う。

わたしなら、嫌だ。


「あのさ」

「うん」

「俺は朋希が嫌いじゃないよ」


脈絡のないような答えに、わたしは困惑してしまう。

そんなわたしを、架くんは面白そうに見ていた。


「どうしたの、急に」

「あいつのことは苦手だけど、いつだって俺の味方をしてくれたのは朋希だけだった」


そう言った彼は、わたしに柔らかく微笑む。


「吉岡は、朋希に似てる」


遠回しすぎて、よく分からない。

それはつまり、わたしのことが嫌いじゃないということだろうか。

自分の解釈に自信がなくて、架くんの表情を伺う。


「俺は、お前の事が迷惑だなんて、全然思ってないよ」


嘘を言っているような顔ではなかった。

わたしは安堵して、思わず顔が緩む。


「それなら良かった」


昔から、人の顔色を窺う子供だった。

それは今でも変わらず、人から嫌われるのは出来るだけ避けたかった。

その相手が校内一の不良だとしても。


だから嫌がられているのなら、接触するのを必要最低限に減らそうと思っていたのだ。

迷惑なのならば、ちゃんと言ってほしかった。

だけど彼は、迷惑じゃないと言った。


「何、そんなことが気になってたの?」

「そんなこと、って言うけどね、大事なことだよ」

「ふうん」


架くんはわたしから視線を外して空を見上げた。

彼にとっては、さほど興味のあることではないらしい。

本当に気にしてなかったんだと分かって、そんな態度が余計にわたしを安心させる。


「わたしは、そろそろ帰ろうかな」

「うん」


いつものように、先に屋上を後にすることにした。

彼に声を掛けると、架くんはわたしを見て手を振る。

ビジュアルと行動がちぐはぐで面白い。


「またね」


思い切って、そう言ってみた。

「また」はないかもしれない、と今までは思っていた。

だけど今なら「また」を約束しても、許されるかもしれない。


「うん、またね」


架くんは、笑顔でそう答える。

彼にとってはきっと、何気ない一言だ。

だけどわたしとっては、それが嬉しかった。

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