#005
脚の付け根にある小さな突起に爪を立てられ、シャロンは下唇を噛む。ぴくん、背中が跳ねるとジョンはまたも突起を潰す。じゅわり、奥から蜜が溢れ出し、シャロンの劣情を暴き出す。突起のさらに奥、内側に指がつぷり、押し込まれる瞬間、シャロンが仰反った。生々しい水音がふたりを昂らせる。蠱惑的な刺激に飛ばないようにとシャロンは感覚を鈍らせる。だが、そのうちに抑え切れない嬌声が口から溢れ出し、涎を垂らしながら頭を真っ白にさせた。
「……シャロン」
バックルが外される音が狭いトイレに響く。ジョンのモノが突然シャロンの奥を貫いた。奥まで入るジョンの熱と欲望。最初は形を馴染ませるように緩やかな腰使いをしていくが、次第に余裕を失っていく。ワンピースを捲り上げられたまま腰を掴まれ、がつん、ばつん、肌が当たる音が響き渡った。シャロンはまるで獣のようなセックスに笑みが溢れてしまう。
恋愛と殺人においてのみ人は今も誠実である
誰かが言っていた言葉がシャロンの鼓膜を貫く。ジョンが言ったのか、ギルが言ったのか、はたまた誰か博識な人間が言ったのか、シャロンはそれを忘れたが言葉だけは覚えていた。
なにか他のことを考えるシャロンのその余裕を感じ取ったのかさらにジョンは奥へと激しく突き進む。シャロンは突き上げられるたびに享楽の波に押し戻された。壁に付いていた手がいつの間にか後ろに捻り上げられ、手首を乱暴に掴まれる。その行為により、背中が仰け反った。シャロンは強引に顎を掴まれ背後を向かせられる。
「なァ、随分と余裕じゃねぇか? 他のことを考えるなんて」
「……貴方のセックスが浅はかだからじゃないかしら」
その言葉に豪快に笑うジョンは中性的な外見からは想像も付かない獰猛な捕食者の顔をし、生意気なシャロンのブロンドヘアを引っ張り上げる。そのまま食らうような口付けをシャロンに打つける。蝕まれるような快楽にシャロンは息付く暇もなく奥を締め上げる。融解している体と浮遊している心を繋ぎ止めるのは卑しい思い。
後ろから押さえ付け、貫いているシャロンの片足を持ち上げたジョン。腰を片手でしっかりと押さえ、膝裏に手を差し込む。ワンピースの裾が持ち上がり、卑しい脚がジョンに丸見えになる。ガスランプがゆらりと揺れるだけの静かな場所に男女の卑猥な水音が響き渡る。
愛情というよりは征服欲の戯れ。ぞんざいな行為はふたりの関係性をよく表している。
「油断すると、すぐ吐きそうだ……」
ジョンはシャロンを作り上げた数多の男に少なからず嫉妬したがこんな名器を生み出した誰かに礼を込めて、シャロンを揺さぶる。シャロンの奥を余すことなく堪能していた。
腰を打ち付けられるたび甘い声を上げてしまうシャロン。艶かしく下唇を噛み、眉間に皺を寄せる姿はジョンの欲望を刺激する。
「おら、逃げんな」
強い刺激を享受したまま甘く濡れた嬌声をこぼす。
びゅくり。ジョンの欲が勢いよくシャロンの胎内に吐き出される。ジョンも荒い呼吸の中で悩ましげに歯を噛み締めていた。
その瞬間だ。シャロンはジョンの腕から逃れ、床に落とされたカランビットナイフを手に取る。ジョンの首筋、薄皮一枚削ぐと今度はシャロンがジョンを壁に押し付ける。
「……情事の後にしちゃ随分と冷たい女だなァ」
先程まで瞳を潤ませていた女はどこへやら。ジョンの首にはたらり、血が流れている。
「貴方、今夜の予定は?」
*
女は上半身裸でベッドに寝そべる男を一瞥した。人差し指と中指に挟んだ煙草、人差し指と親指で持つワイングラス。ボルドー型のそのワイングラスには赤紫色の液体が注がれている。白色のワンピース姿が似合わない妖艶なシャロンがもう一口ワインを含む。捕食者の瞳だ。シャロンは今、目の前に食べ頃の餌を見つけ舌舐めずりしている。
「……うまいのかよ」
「えぇ、とっても」
ベッドに寝そべる上半身裸のジョンは手首をベッドの柵に縛り付けられ、目隠しをされたまさに
ワインを嚥下し、煙草の先端にある火が燃える僅かな音でシャロンが今、なにをしているか想像した視界の見えないジョン。
シャロンはまたもエデンのマスターからワインを買った。シャトーペトリュスの当たり年、一九九五年物のワインをジョンに強請れば溜め息を吐かれながらもマネークリップを出してくれた。エデンのマスターは手離すのが惜しい、と嘆きながらもジョンの出した金額に了承する。高級ワインがシャロンの手に渡った。
「無様ね」
「……俺にこんなことができるのはてめぇだけだよ」
シャトーペトリュスの当たり年を口に入れるシャロンはその芳醇な味に舌鼓を打ち満足感を得ていた。帰り際に見た大麻を吸収している黒人男性たちに「大麻よりワインを買えばいいのに」と内心で思っている。
ここはジョンが滞在するホテルの一室。シャロンは衣食住に金をかける方だが、ジョンはその嗜みに興味はないらしく、フランスで比較的治安の悪い場所にある安モーテルにねぐらを構えていた。
「あら、光栄よ」
「てめぇの顔が見たいなァ」
「ダメ」
シャロンはワイングラスをサイドテーブルに置き、煙草を咥えたままベッドに上る。ジョンの腹に尻を乗せ馬乗りになった。煙草とワインの濃厚な香りの中に微かな精液の匂いを携えたシャロンに乗られたおかげでジョンの背筋は粟立つ。卑猥だった。卑猥なシャロンを触れられない苛立ちが募るジョンの出来上がりだ。シャロンはすでにいきり勃つ熱を感じていた。尻に当たる感触。だが、それに触れない。
「首筋、痛そうね」
シャロンは先程、カランビットナイフで削いだジョンの傷口に舌を這わせる。裂くように舌を傷口に挿入した。憐れな嬌声を上げないようにか、はたまた痛みを我慢するようにか、ジョンは下唇を噛んだ。彫刻像のように鍛え抜かれたジョンの上半身を指先でなぞりながら首筋を舐める。
「…、っ、シャロン…」
「なぁに?」
「……クソ、!」
アイアンの柵に拘束されているジョンは溜め息を吐きながら苛立ちをシャロンに向ける。その気になれば拘束など自らの力で外せるのにそうしようとしない従順なジョンに笑みがこぼれる。
「今晩は愉しませて。ジョン・ドウ」
獣を抱く女 枯 個々 @cocogare
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