第8話

電話越しからは露骨な溜め息が聞こえてきた。私はきっと、この上なく健を困らせている。




「紫乃は、一体どうしたいの?俺にどうしてほしいの?御手洗さんと話しあってほしいの?俺の嫁にストーカーすんなって怒鳴ってほしい?殴ってほしい?それとも殺してほしいの??そうしたら、お前の気が晴れるの??」



「私もどうしたらいいのかわかんない。でも…この家にはもう住みたくない…。」




「住みたくないって……。自分で何言ってるかわかってる?何年ローン残ってると思ってんの?てか、この家出てどうするつもりだよ……」



「アパート借りようよ……。健が昔に住んでたような狭いアパート。こんな広いマンションなんていらない。あの頃に帰りたいよ…。私も働くから……」




「おやすみ。」




電話は一方的に切られてしまった。そのあとは何度かけても繋がらなかった。完全にスマホの電源を切っている。

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