第32話

妹に睨まれ、



「分かった。あとは若い二人で話し合え。あ、映画も二人で行ってきてくれよ。俺は美紅と行くから」



やれやれと肩をすくめた右京が、都古の用意した紅茶のマグカップを一つ持ってリビングを出て行った。



きっと自分の部屋に向かったのだろう。



……兄と別々で暮らすようになった今となっては、彼の部屋にはもうベッドと勉強机くらいしか置かれていないが。



都古たちを気遣ってそんな寂しい部屋で過ごすことにした兄の気持ちを、無駄には出来ない。



「あ、あの、俊さん――」



意を決して隣の俊を振り返った都古の声を、



「都古ちゃん」



いつになく真剣な表情をした俊の声が遮った。



「……付き合おっか」



「……えっ!?」



ぱちぱちと目を瞬く都古の反応を見て、



「えっ、嫌だった!?」



“うん!”と笑顔で即答されるものだと思っていた俊は、途端に泣きそうな顔をする。



「い、嫌なわけない……嬉しい」



言っている途中で、ぽろぽろと涙を流す都古の頬を、



「……こんなことなら、最初から素直に付き合おうって言えば良かったな」



俊が両手で優しく撫でる。



顔を挟んで支えるような姿勢になったので、キスされるのでは!? と都古は身構えたが、



「これからよろしくね、都古ちゃん」



俊はそんな彼女の目を真っ直ぐに覗き込んで、照れくさそうに微笑んだ。

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