第29話
「いっちーの大事な妹を、これ以上泣かせたくないんだ」
悔しそうに膝の上の拳を握り締める俊を、
「なんで私が泣くこと前提で話すの?」
都古が睨むようにして見上げる。
そして、
「だって……今もう既に泣かせてるから」
そんな俊の一言で、都古は自分の頬が涙で濡れていることに初めて気が付いた。
それを、服の袖でごしごしと慌てて拭く。
「もし私が……お兄ちゃんの妹じゃなかったら、そういう目で見てくれてた?」
「もし都古ちゃんがいっちーの妹じゃなかったら、多分……都古ちゃんは俺じゃなくて、いっちーのことを好きになってたと思うよ」
「……」
都古は何も言い返せなくて思わず黙ったが、
「実の妹から見てもカッコイイって思えるんだから、本当にイイ男はいっちーなんだよ。俺じゃない」
そんな俊の言葉には、流石にムッとした表情をする。
「俊さんだって素敵だもん! 消防士さん目指して、毎日辛い訓練も頑張ってて……そういうの、凄く格好良いと思う!」
「……っ」
ムキになった勢いで身を乗り出し気味になる都古に、俊は少し身を引いて距離を置いた。
が、その顔は真っ赤に染まっていて、
「俊さん……?」
初めて見る彼の表情に、都古は驚いて目を丸くする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます