第29話

「いっちーの大事な妹を、これ以上泣かせたくないんだ」



悔しそうに膝の上の拳を握り締める俊を、



「なんで私が泣くこと前提で話すの?」



都古が睨むようにして見上げる。



そして、



「だって……今もう既に泣かせてるから」



そんな俊の一言で、都古は自分の頬が涙で濡れていることに初めて気が付いた。



それを、服の袖でごしごしと慌てて拭く。



「もし私が……お兄ちゃんの妹じゃなかったら、そういう目で見てくれてた?」



「もし都古ちゃんがいっちーの妹じゃなかったら、多分……都古ちゃんは俺じゃなくて、いっちーのことを好きになってたと思うよ」



「……」



都古は何も言い返せなくて思わず黙ったが、



「実の妹から見てもカッコイイって思えるんだから、本当にイイ男はいっちーなんだよ。俺じゃない」



そんな俊の言葉には、流石にムッとした表情をする。



「俊さんだって素敵だもん! 消防士さん目指して、毎日辛い訓練も頑張ってて……そういうの、凄く格好良いと思う!」



「……っ」



ムキになった勢いで身を乗り出し気味になる都古に、俊は少し身を引いて距離を置いた。



が、その顔は真っ赤に染まっていて、



「俊さん……?」



初めて見る彼の表情に、都古は驚いて目を丸くする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る