第32話

そんな恵愛の手を、無理矢理に掴んでくる細く小さな手があった。



「ちょっと、こっち一緒に来てください!」



それは、右膝から血を流している美紅で、痛みを我慢して恵愛を無理矢理どこかへと引っ張っていく。



そうして連れて行かれた場所は、美紅の想い人が働いているという美容院。



恵愛も、美紅へ嫌がらせをするために一度来たことがある場所。



ここで、あの時の復讐をどんな風にされるのだろうとびくびくする恵愛を連れて、美紅は美容院の奥の部屋を借りて、ブラウスのボタンを縫い直してくれて。



そんな彼女を見ていて、どうしてこの子が皆から愛されるのか、大切に想われるのかを理解出来た気がした。



(こんなにいい子が傍にいたんじゃあ、私なんて眼中に入るわけないよね)



美紅の想い人だと聞いていた美容師は、もう既に美紅のことを好いているように見えたが、彼女は今は右京に恋してしまっているのだと、話をしている中で知った。



現在両片想い中であるらしい右京と美紅の間には、きっと恵愛が入り込む隙なんて全くない。



それに恵愛自身が、この美紅という少女を酷く気に入ったので――



彼女の恋を応援しつつ、右京の方には茶々を入れてからかって遊びたいと思った。

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