第30話

恵愛はこんなにも苦しんでいるのに、美紅だけが皆に愛されて、幸せそうに過ごして見えるのがとても許せなかった。



美紅の想い人が誰なのか、飯田を使って調べ上げ、その相手に美紅の悪い噂を吹き込んだりしたが効果はなく――



それどころか、右京とは喧嘩までしてしまい、ついにはっきりと別れを告げられた。



今までずっと自分の気持ちを我慢していた彼が、ついに美紅に対して本気を見せ始めたのだ。



心のり所を完全に失った恵愛の精神は、もう限界まで追い詰められていた。



飯田は学校内で暴行事件を引き起こしたとか何とかで謹慎処分を食らったと嘆いていたけれど、もう恵愛にはどうでもいい話。



そんなことよりも、どうしても美紅という少女をこの目で直接見てみたいと思うようになり――



飯田が過去にスマホで盗撮してきた、美紅の横顔の写真を頼りに、目当ての彼女を発見した。



本当は、そんなに苦労することなく特定出来たのだが。



檸檬高の学校前で隠れて待ち伏せをして、右京と並んで歩いている少女がそれだとすぐに分かった。



恵愛が尾行している間も、電車内では右京が彼女を人の波や痴漢から守るようにして庇っている場面も見たし、彼が遠回りをしてまで彼女を駅まで送っているのも見てしまった。



三年生に進級してから、右京が恵愛の誘いを断るようになったのは、彼女を送るためだったのだとこの時になって初めて知った。

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