第28話

まだ女性の体というものを誰一人として経験していなかった飯田は、すぐに恵愛の体の虜になり、



(そうよ。童貞なんて皆、普通はこういう反応を示すものなのに)



今まで、たったの一度でも右京の方から求めてくることなど全くなかったその事実に、恵愛のプライドは深く傷付けられた。



右京に嫉妬してもらいたくて、胸の目立つ場所に飯田からのキスマークを残したりもしたのだが――



元々、恵愛の自慢の胸には興味の欠片もない右京が、その存在に気付いていたかどうかも不明で。



狂ったように嫉妬の感情を見せたのは、継父だけだったが、今の恵愛にはそんなことは正直どうでもいい。



悶々とした気持ちを抱えたまま過ごしていたある日、飯田によって、右京の学校での行動の変化が報告された。



それは、今年の春に檸檬高に入学してきたという『校内一の美少女』に、随分と入れ込んでいるらしいという情報。



『檸檬高の高嶺の花』と呼ばれているはずの彼が、今や『もう一人の高嶺の花のストーカー』になっているというのだ。



その美少女の名は『間宮まみや 美紅みく』というらしいが、実はその名前は恵愛も聞いたことがある。



学校同士がそれほど離れた距離ではないからか、『檸檬高に絶世の美少女が入学したらしい』という噂で、恵愛の学校内でもしばらく持ちきりだったから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る