第30話

――そして、その時はやってきた。



「そこのおにーさん、こっち向いてー!」



他校の学生も含む一般客たちから、右京は嫌というほど声をかけられまくり、疲労困憊こんぱいしていた時、



「あっ! みくたん! いらっしゃい!」



相原の嬉しそうな声が響き渡り、右京は条件反射的に物凄い速さでそちらを振り向く。



入口ドアのところには、天野と共にやってきた、愛しい美紅の姿が。



「美紅……!」



すぐに彼女の元に向かおうとして、



「おにーさん! 私のイケメンコーヒーにお砂糖入れて、ちゃんとあまーくしてよー」



右京を指名してきた女性客に引き止められ、舌打ちしたい気持ちを懸命に堪えて淡々と仕事をこなす。



そんな右京を入口に突っ立ったまま遠巻きに見ていた美紅は、



(あ、右京くん……カフェ店員さんの姿もお美しい……)



眼福とばかりに、その姿を目に焼き付けておくことにした。



あちこちの席から呼ばれて忙しそうな右京を横目でうかがいつつ、案内された席へと座る。



女子の先輩からもらった例の食券を相原へと差し出すと、



「一応指名も出来るけど、みくたんはいっちーだよね?」



憧れの美紅と一対一で話せて超がつくほどご機嫌な相原は、にこにこと微笑む。



「はい。でも……右京くんが忙しかったら無理にとは……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る