第26話

しばらくしてから、ようやく右京が美紅から唇を離し、



「今すぐ、このまま美紅を連れ去りたい」



両腕で、彼女が苦しくならない程度にきつく抱き締めた。



「こ、このままは困る!」



白雪姫という目立つ格好をしている美紅は酷く慌てたが、



「ん、そうだな。この後で行く茶道部のお茶会も、凄く楽しみにしてるんだもんな?」



違う意味にとらえた右京が、ふわりと優しく微笑んで美紅を離した。



そんな右京の顔をじっと見上げていた美紅は、



「……もう怒ってないの?」



つい先程まで不機嫌そうだった右京の表情を思い出して、恐る恐る訊ねた。



「まだ根には持ってるけど……美紅の方からキスしてくれたの初めてだし、今は嬉しさの方が勝ってる」



そしてまた美紅の体をぎゅっと優しく抱き締めて、



「ちょろいだろ、俺」



苦笑する声と共に、そんな台詞を吐き出した。



美紅はそんな彼の胸に顔を埋めながら、



「檸檬高の高嶺の花が、そんなにちょろくていいの?」



ふふふっ、と嬉しそうに微笑む。



そんな美紅の顔に手を添えて上を向かせた右京は、



「俺がちょろくなるのも、美紅限定だからな」



その唇に、触れるだけの優しいキスを落とした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る