婚約破棄された後宮女官〜後宮でハッピーライフを送ります〜

𦚰阪 リナ

第1話 婚約破棄

「約立たずめ!」


「ここから出ておいき!」


「こんなこともできないのか!」


再び飛んでくる罵倒。

もううんざりだ。

こんな家は。

最悪この家の侍女となりこの家から脱出するか、花街はなまちという場所で妓女ぎじょをするか。

或いは後宮という女の城で働くか。

この家の主の妻、徐 仙華じょ せんかは三つの選択に責められた。


「申し訳ありません…」


妻だが使用人かのようにこき使われる日々。

仕事に失敗すればご飯は抜かれ、夫にすら合わせてもらえない。

そんな日々が続いている。


「仙華さま…」


「なんですか…?」


「旦那さまがお見えです」


「畏まりました」


旦那さまはいつも自分を大切にしてくれる。けれど、その周りの人々は自分を醜い動物でも見るように見てくる。

もう限界だ。


「旦那さま」


「お前なんか、娶らねば良かった」


「そんなっ!わたくしめは旦那さまのために、精を尽くして働いたではありませんか!それのどこが駄目だと仰るのです?!」


旦那さまに必死に訴える。訴えても無駄だと思うけれど、訴えないよりはマシだ。

最後くらいは必死に訴えなければ。


「私は君のすべてが嫌いだった。君は私の妻に相応しくなかった、ということかね?」


「そ、そんな…」


仙華は下を向く。

そういえばここに来てからも、前のところでも失敗ばかりしてた。


「では明日、荷物を持ってここから出ていってもらおう」


口を開けようとするが、言葉はもう出てこない。

いつもならここで文句のひとつやふたつ、出ていただろうに。


「畏まりました…」


「こちらへ」


侍女が案内してくれる。

ここからは、どういう風に生きていくか考えなければならない。


「仙莉さま、これからどうするおつもりで?仙莉さまはご実家に帰られるのですか?そうでしたら、わたくしもお供いたします」


「お気遣い…ありがとうございます」


ひとりの侍女が気をつかってくれるが、恐らく本心ではないだろう。


「これからは、ここで身につけていただいた自分の力のみで生きていくつもりです。ここまでしていただき、ありがとうございました」


「それではあした出発してください、さようなら」


パタンー

扉の閉まる音がする。

その音は何処か憎しみが籠っていた。ついてきて、と言わない方が良かったのかもしれない。

はあ、これからどうしたらいいのだろうか。



◆❖◇◇❖◆


「ここに、何故かあるのか?」


「…」


呂 颯鵠りょ そうこく、答えぬか」


「あなたさまの運命を変えるやもしれぬ出逢いが待っていると、あの方達が見ておられます。これは間違いございません」


呂 颯鵠はこの国ーしん国独自の省、神仙省しんせんしょうあるじである。

神仙省とはその省の長と副官達が神の告げを聞き皇帝、白 利彗 はく りすいに神の声を届ける重要な役目を果たす省である。

否、颯鵠が手を開き、誰かがいるのかわからないがそこに手を向けるが、利彗にはまったくわならない。

でも信じるしかない。この者が本当に神の告げを聞き取れているのを信じるしか、自分が助かる道はないのだ。


「余はそなただけを信じる。そう決めたからな。もし余を裏切ったら、承知しないぞ」


「…あの方々はこうも仰っておられます。これから起こる物事は、神でさえも驚くような出来事だと」


「ああ、わかっている。なんとなく…そんな気がしていたからな」


「あなたさまの感も強い。これは、誠でしょう」


「ふっ。余はそなたを信じてよかったと思っているぞ」


「ありがとう存じます、陛下」


出逢えてよかった。この者に。


「ここです。神様方はここで待っていろ、そう仰っておられます」


この者は死んだ霊も見えるらしく、自分の父も見えるらしい。

この者を通じていろいろな霊と友達になるのは本当に楽しい。

この者ー颯鵠に出逢えて嬉しい。

いつぶりだろうか、人と出逢えて嬉しいと思えたことは。


「そうか」


「はい!」


自分のことを肯定してもらえるのが嬉しいのか、颯鵠はにっこりと微笑む。


「ではそなたの言う通り、待っておこう」


1台の豪華なくるまが止まった。

それは仙莉という偉大な人物になる前の者と出逢う前の前兆であり、国を豊かにする前兆でもあったという。


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婚約破棄された後宮女官〜後宮でハッピーライフを送ります〜 𦚰阪 リナ @sunire

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