第29話

「ミカエル様!」突然のデヴィットの声にミカエルは飛び起きた。時刻は夕暮れ。どうやらいつの間にか眠っていたようだ。「あぁ…。すまない。どうした?」目を擦りミカエルはデヴィットを見つめる。するとデヴィットは顔を青ざめながら「レイラ様が・・・、レイラ様が居ないのです!」と切羽詰まった声で言った。

デヴィットの言葉を聞きミカエルは一気に目を覚ます。「居ないって…、一体、どういう事なんだ!?」気持ちが焦り思わず怒鳴るかのように尋ねてしまう。そんなミカエルの様子を見ながらデヴィットは話を続ける。「はい…。いつものように食料を届ける為に森に入りました。ですが小屋の中に居なくて…。他も思いつく場所は探しましたが…。」そしてデヴィットは懐から封筒を出し、戸惑いながらミカエルに渡す。「これは…?」「レイラ様を探している時に見つけたのですが…。」そう言いながらデヴィットの顔は青ざめたまま。ミカエルは封筒を受け取ると中身を取り出した。

「『親愛なるミカエル・カーチェスト殿。森の中に匿われた目障りな姫君は預かった。返して欲しければ今日の夜8時までに昨日国王が発見された場所まで1人で来い。少しでも遅れたり誰かを連れて来たら姫君の命はないと思え。待っているぞ。Mより』。…って、これは誘拐を示した文じゃないか!?」ミカエルは手紙を持つ手を震わせながら叫ぶ。「レイラ様を探している時に草むらの中で見つけました。ミカエル様に見せなければならないと思い走って持って参りました。」デヴィットは暗い表情のまま話しを続ける。「…本当は警察に知らせるべきなのですが、レイラ様は『居ない存在』ですので取り扱ってくれるか不安でして…。それに、大騒ぎになって万が一レイラ様の命が奪われるような事になってしまったらと思うと…。」…デヴィットの言う通りだ。もしレイラが殺されてしまったら、間違いなくジュビアの独裁に拍車が掛かる。何より愛しい人を失いたくはない。ミカエルは大きく息を漏らし上着を羽織ると「…じゃあ、行ってくる。後は頼んだぞ。」と言って部屋の扉を力強く開ける。そしてレイラとMと名乗る者が居る空き家を目指して走って行った―。

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