第20話

昼近く。ダンスパーティーの為に僅かな招待客が集まってきた。ミカエルはドリスと共に仲睦まじい恋人を演じ招待客を迎える。朝の内に戻って来たデヴィットは「…例の件。レイラ様に話しておきました。一瞬、戸惑ってはいましたが承諾してくれました。」とミカエルに話し、今は執事の仕事に専念していた。ドリスは国王の場所に関して何かを思い出そうとしているのか、時々、上の空になっている。ジュビアは作戦が進行しているのに気付かないのか、いつものような気品を漂わせながら招待客の相手をしている。そしてミカエルの友人と偽った2人の探偵・マイクとウィリアムも城にやって来た。この2人には既に依頼内容を説明してある。更に城に留めさせる為、ジュビアに「友人2人を数日泊めさせてほしい。」と伝えておいた。勿論、ジュビアは疑いもせず了承。こうして徐々にではあるが舞台は整っていった。

城の一番奥の舞台場に招待客は集まり雑談している。その顔ぶれはジュビアが豪遊した先で知り合ったという者達で、サフィロス王国が苦しい財政だと知らないようだ。「凄いな…。」「お母様の遊びは派手ですから。」呟くミカエルの横でドリスは静かに話す。そんなドリスの様子を2人の探偵は陰から見張っていた。

いよいよ社交ダンスの時間。室内に優雅な音楽が流れ始める。ミカエルとドリスは向かい合うと、ミカエルは左手をドリスの腰に手を添え、ドリスは右手をミカエルの首の後ろに回した。そして互いの片手を握り合い曲に合わせてステップを踏む。ダンス経験のあるミカエルが率先して踊った。「さすがですね…。」思わず感動するドリスにミカエルも「君もなかなかだと思うよ。」と答えた。

しばらく踊っているとドリスは何かを思い出したかのように呟く。「朝の話ですが、母が何度か城から出て空き家が建ち並方向に行ったのを見た事があります。そこに国王が居るかは分からないのですけど…。」サフィロス王国は城の建つ崖の下にレイラの住む森があるのだが、城の後ろにはかつて国民達が住んでいた住宅地がある。今は大半の者達が国外追放されほぼ空き家地帯になっているのだが、確かにそこなら人を隠し易い。「思い出してありがとう。」ミカエルが優しくお礼を言うとドリスも笑顔になる。そして和やかな雰囲気の中、2人は踊り続けた。

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