第29話

「えっ? 右京先輩、セフレがいるんですか!?」



美紅は驚きすぎて、思ったそのままを口に出していた。



「……おい。女が大声でセフレとか言うな」



右京に思い切り睨まれ、



「あ、すみません」



美紅はしゅんと項垂れたが、



(セフレの存在自体は否定しないんだ……)



そんなことに気が付いて、何故だか胸がズキンと痛んだ。



すっかり味の分からなくなった弁当を食べ終え、ランチバッグに弁当箱を片付けながら、隣の右京をちらりと見ると、



「……」



彼は不機嫌そうな顔のまま、美紅のあげたフルーツ・オレを飲んでいる。



その甘ったるい匂いが風に乗って美紅の鼻腔をくすぐって、



(何か今は、そんな気分にならないな)



まだストローをさしていなかったいちごミルクを、ランチバッグの中にそっとしまった。



「……美紅」



ストローから口を離した右京が、不意に美紅を呼んだ。



顔を上げて右京を見ると、その目はいつも美紅を見る時と同じ、真っ直ぐな眼差しで。



「俺は、美紅に対しては他の女と同じようには思ってないからな」



(それは、どういう……?)



美紅はそう訊ねようとして、やめた。



きっと、その答えをもらったところで、美紅にはその後どうすればいいのか分からないから。

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