第28話

「それは、美紅にとって必要な情報か?」



「えっ……」



今まで一度も向けられたことのなかった冷たすぎる眼差しに、美紅は恐怖で固まった。



「そんなことを聞いて、美紅にとって何になる?」



「……先輩に彼女がいるのなら、こうして2人だけでお昼を食べたり、毎日一緒に登下校したりっていうのは、してはいけないと思うので」



……間違ったことは、何一つ言っていないはずだ。



だから、右京に睨まれる覚えなんて、全くない。



「……“恋人”の定義って、何だと思う?」



「は……?」



突然の右京からの質問に、美紅は面食らった。



けれども、右京は真剣な表情で美紅を見つめている。



「惹かれ合った人同士の想いが通じ合えたら、そこからはもう恋人と呼んでもいいんじゃないですか?」



「じゃあ、今の俺と美紅は、“恋人”ではないと断言出来るんだよな?」



はたから見れば、恋人同士だと思う人もいるのかもしれない。



けれども、美紅たちの間に“通じ合った想い”なんてものは存在しない。



「はい。私には、ちゃんと他に好きな人がいるので」



「……」



美紅の返事に、右京の目がまた氷のようにスッと冷える。



「俺とその“他校の彼女”とやらも、そんな感じだ」



「えっ?」



「世間一般で言うはしてるけどな。俺にはあいつへの気持ちなんか、これっぽっちもない」



それは、つまり――

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