第26話

「何の用ですか? こんな卑怯な手を使ってまで」



「うん?」



右京は特に気にした素振りを見せず、美紅にランチバッグと水筒を返すと、自分の分のランチバッグから弁当箱を取り出した。



「……お弁当持ってきてるのに、購買行ったんですか」



「あぁ。美紅の友達が、焼きそばパンとメロンパンが手に入らなくて悔しがってるだろうと思って先に取っといてやったんだ」



そう言って笑う右京はやっぱり黒い笑みを浮かべていて、今日のこれは計画的だったのだと知った。



「なんで、こんなことを?」



「うん? あー……今日の美紅の髪があまりにも綺麗だったから」



そう言った右京の笑顔は、黒かったものから、甘いそれに変わっていって。



「少しでも長く、独り占めしたくなった」



そう言ってふわりと微笑む右京の顔は、美紅も初めて見る種類のもので。



いつも以上に居心地悪く感じて、美紅は慌てて右京から顔を背けた。



意識したら負けだ、と自分に言い聞かせながら、自分の弁当箱を開ける。



蓋をベンチの空いている所に置こうとして、



「あ」



先程買ったばかりのパックジュースをそのまま持ってきてしまったことに気が付き、天野に渡してこようかと悩んだが、



(私のこと、勝手に売ったしなぁ)



という考えに至り、



「先輩。どっちか飲みますか」



隣の右京と分け合うことに決めた。

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