第8話

そこには、



『放課後、体育館裏に来い』



とだけ書かれていて。



手紙を見つめたまま、靴を履き替えることもせずに固まる美紅の背後から、



「何だ、それ」



靴を履き替えた右京が、その手紙を取り上げて怪訝けげんそうな顔をした。



「ラブレターってヤツか? 流石は校内一の美少女だな」



どこからどう見てもイジメのための呼び出しなのに、右京は呑気にそんなことを言う。



「俺が牽制してやろうか? 美紅はこの右京様が狙ってるところなんだから邪魔をするなって」



「いや、あの、それは――」



否定すべきポイントが多すぎて、どこから突っ込めばいいのか分からず美紅は慌てたが、



「あ。図書室に忘れ物した」



校内一美しくてマイペースすぎるこの男は、美紅の台詞を遮ってポンと手を打った。



「靴履き替えるの面倒だから、お前、代わりに図書室まで行って取ってきてくれよ」



そう言う右京は、いつものローファーは履いておらず今日はスニーカーを履いている。



「え? なんで私が……」



「先輩命令だ。頼んだぞ」



美紅の背中を図書室のある方向へと無理矢理押して、自分は昇降口を出て体育館のある方向へと歩いて行ってしまった。



相変わらず、



「訳分かんない人!」



何を考えているのか、全く分からない。



とりあえず、美紅は言われた通りに図書室へと向かい、



「あっ……」



右京から、一体何を忘れたのかを聞き忘れていたことに気が付いた。

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