第32話

「あの……お久しぶりです」



穴が空くほど、とはこういうことを言うのかと思うくらいに凝視されて、そんな言葉しか出てこなかった。



「直人くんが、結月と……?」



確認するようにゆっくりと問いかけられて、



「はい」



俺はしっかりと頷いた。



その直後、



「良かったわねぇ、結月!」



冷や汗をかき始めた俺から娘へと視線を移した彼女は、途端に破顔した。



ゆづの背中をバシバシと叩きながら、



「ずーっと片想いしてたものねぇ!」



本当に嬉しそうに笑っている。



「ちょっ……お母さん、痛いよ!」



そんな母娘のやり取りにホッと胸を撫で下ろしながら、母の案内で客間へと通された。



そこには既にゆづの父親が座っていて、



「……は? 直人くん?」



ゆづの相手が俺だと分かった瞬間に、



「……舞ちゃんが結婚したから、あの子に似ていると言われるうちの娘に乗り換えたのか」



父の表情が一瞬で険しいものへと豹変した。



そう思われるだろうことは想定していたし、それが原因で嫌悪されることも覚悟はしていた。



でも……それをゆづの目の前で面と向かって指摘されるのは、流石に辛い。



「ちょっと、お父さん!」



「直人くんに失礼でしょ!」



ゆづとお母さんが慌てて止めに入ってくれたけど、



「大事な一人娘なんだ。生半可な気持ちのヤツに、近付いて欲しくない」



ゆづのお父さんは、俺を睨みつけるのをやめなかった。

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