第30話

薄暗闇の中でも、その瞳が涙で潤んでいるのが分かる。



でも、それがどういう意味の涙なのかは、俺には分からなくて。



「ゆづ……」



まるでゆづを犯しているような、嫌な気分になってくる。



「ナオくんがうちの親のこと、急に“ご両親”とか言うから……」



「へ?」



予想だにしてなかった話題を振られて、俺は間抜けな声を出してしまった。



「いつもは、“おじさんとおばさん”って呼んでるのに」



「それ、は……」



結婚を意識している相手の親をそう呼ぶのは、何か違う気がしたから。



「急に婚約者感出されると……何か凄く恥ずかしくて」



また目を逸らそうとするゆづの頬を両手で挟むようにして、顔を固定した。



「俺と夫婦になるのが嫌ってわけじゃないんだな?」



「……ナオくんとふーふ……」



俺の言葉をオウム返しに呟いたゆづは、



「……」



言葉では答えてくれなかったけど、確かにこくんと小さく頷いてくれた。



そんなゆづの左手に俺の右手を合わせて、指を絡めるようにしてきゅっと握る。



まだ慣れない、ゆづの指輪の硬い感触がして、俺の口角は自然と上がる。



「好きだよ、ゆづ。愛してる」



「私もナオくんのこと愛してるよ……あっ……!」



ゆづの言葉を聞きながら腰をゆっくりと動かすと、自然と漏れる甘い声。



この可愛い声がいっぱい聞きたくて、俺はゆづの両手をベッドに縫いつけたまま、ゆづと一緒に快楽の海へとちていった――

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