第29話

ギシギシと軋むベッドの上で、



「……っ、ん……!」



いつもなら、可愛い声を沢山聞かせてくれるのに。



今日のゆづは口元を右手の甲で押さえ込んで、何故だか必死に声を我慢している。



俺の目も全然見てくれなくて、ずっと顔を背けて目は閉じられたまま。



体は繋がっているのに、心はまるで触れ合っている気がしない。



つい、ゆづの初めてを無理矢理奪った日を思い出してしまう。



――あの日も、ゆづとは一瞬たりとも目が合わなかったから。



「ゆづ……お願い。俺の目を見て」



「……っ」



何故か、ゆづは黙ったまま首を横に振る。



――ズキッ……!



体が繋がっているせいだろうか。



普通に拒絶されるよりも、心臓の辺りを深くえぐられたような気分になった。



「ゆづ!」



声と腰の動きがつい大きくなってしまって、



「やっ……!」



ゆづの体がびくっと大きく震えた。



「今日はこういうことする気分じゃなかった?」



「……」



ゆづは相変わらず口を手で押さえたまま、首を横に振る。



今日ベッドに入って以来初めてゆづと目が合った。

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