第19話

今日の俺は遅番シフトだ。


相場さんを食事に誘おうと思う。


もし、同僚に聞かれても

店長からの課題のためだと言えばいい。


これは嘘ではないのだから。


休憩時間の重なった時に誘った。


「食事だけなら」と、返事をもらった。


別に口説くわけではないので、問題ない。


仕事終わりに向かったのは、一階にあるファミレス。


専門店街が終わった後も、こことスーパーは営業してる。


俺はビール カルボナーラ サラダを頼んだ。


相場さんはたらこスパとサラダ ドリンクバー


頼んだ料理が来るまでは仕事の話をした。


料理が運ばれてからは、プライベートな話を振る。


「相場さんって友達から

真面目とか真面目過ぎるって言われないですか」


「えっ なんでいきなりそんな話を」


「見てて思うんですよ。上手く言えないけど

殻を破りたがってると言うか

早く自分が描く大人になりたいって言うか

なんとなくですけど思ったんです。

気を悪くしたらごめんなさい」


「佐藤さんにはそう見えたんですね。

それは当たってるような気もしますし

そうでないと思う私がいる気がします。

自分のことなのにわかってないんでしょうね」


「大体の人は自分のことをわかってないですよ。

まあそれは一部分だったり

その時の状況で変わるものですしね」


「大人の人と話すと違いますね。

実は私。父親がいないんです。

年上の男性と話す機会は学校の先生くらいで。

でも先生との話は勉強のことだけでしたから。

苦手ではないと思うし、むしろ憧れがあったりして」


相場さんはキレイにスパゲティを巻いて口に運ぶ。


「佐藤さんには、かまえないで話せるんですよね。

自分でも不思議なんです。

あっ、父親の影を見てるとかで無いですから」


「大丈夫ですよ。実際父親世代でしょうし」


「すぐ、許してきますよね。

なんかズルいって思います」


「ズルいですか。私がですか」


「はい。手のひらで転がされそうです」

と言って笑う。


その顔は私に刺さった。


ビールのお代わりをもらう。


「いつも飲まれるのですか」


「晩酌で缶一本です。

今日は若い子との食事からの緊張で」


「そんな。私で緊張するんですか」


「しますよ。年取って思います。

前向きに生きてる若さは輝いてるとね。

私から見たら相場さんはそのうちの一人ですから」


「私が輝いてるの。

そんなこと言われたこと無いですよ」


「私から見てって話ですから。

あと、思ってても言わない人もいますし。

私みたいにビールのせいで言う人もいるんです」


「あはは ビールが言わせたんですか」


「そうです。ビールのせいです」


「たとえビールのせいでも嬉しいです。

佐藤さんは嬉しくなる言葉をくれるんです。

もっとお話ししたいのですが

このあと友達から電話が来ることになってるので」


「えぇ。またお話ししましょう。

最後におせっかいなんですが

卵が孵化するのにも

さなぎが蝶になるにもかかる時間があるんです。

なにか必要があって頑張ってても無理したら駄目ですよ」


「なんで泣かすんですか。なんで。

佐藤さんはやっぱりズルい人だ」


「かわいこちゃんは泣かないでください」


「佐藤さんが悪い。ビールのせいじゃない。

佐藤さんのせいだから」


「そうですね。ごめんなさい」


「ほら、また。もう恥ずかしい。バカ」


会計を済まして、ファミレス前で別れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る